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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十二章:脱出

 木々のざわめきと水の滴る音が徐々に大きくなっていた。
 「フェニックスとファイヤードレイクは何故、我々の行動を止めようとしないのだろうか」
 山道を潅西関の巨大な門が見えるところまで来たところでモノケロスが言った。今ここにいるのはモノケロス、ドレディア、ガルノスを含めてもたった十人程である。元々は二人の隊も合わせて「行軍」となる予定だったのだが、敵の動きが全く見えないので、少人数で潅西の関に向かうことにして隊士にはより安全と思われる道を行かせたのだ。潅西関でフェニックスか誰かが待ち構えているのは言うまでもないが、それまでに襲撃があっても不思議ではなかった。それがなかったのである。
 「私たちがここから援軍と合流しようとすることぐらいは、あの二人のことです、察しているでしょう……南から逃がしている者をそのままにしている辺り、目的は私たちだけであることが容易く想像できますね。しかし隊士を逃がすに当たっては好都合、予想通りです」
 「少人数で関まで来るのを待っている、ということだな」
 「それは間違いないな。主様が片足を失っていることも奴らは知ってるだろうし……ところでドレディアさん、何か、気配を感じないか?」
 ドレディアは横に首を振った。
 「そうか。でも誰かいる。敵ではなさそうな気はするが」
 「注意するに越したことはないな」
 モノケロスが土の斜面を滑り終えて言った。
 「足音が近い。敵か味方かは分からないが急ぐぞ」
 「モノケロス様、敵のようですよ。関の東側に、旗が」
 ドレディアが指差した先には無地の紅い軍旗が風に激しくはためいていた。
 「敵のものであることは間違いなさそうですが、誰なのかは分かりません。それにしても関を通り抜けてくるとは」
 つまりは関の看守に許可を得ているのだ。
 「もう少し様子を見るしかないですね。こうなっては援軍の到着を待つほかありません」
 「うーん、ドレディアさん、何かないか?」
 ガルノスがもどかしげに頬を掻きながら言った。
 「例えば、突破する方法とか奴らの目を掻い潜る方法とか。武人の俺もいるんだから使ってくれよ」
 「一対何千、では無理と言うもの。それにここから山道を東に進んだとしても、援軍と合流するには崖を降りなければ」
 「自重しろ、ガルノス……ここで詭計を用いても成功はしないだろう。これ以上の危険を自ら招く訳にはゆかぬ」
 モノケロスに諭されてガルノスは開きかけた口を閉ざした。そのガルノスの肩を一緒に来ている隊士の一人が掴み、木の向こうに隠れた道を指差した。
 「援軍が来た。ぶつかるまでにまだ少しある。決めてくれ。戦闘が始まらないうちに出るのか、始まってから出るのか」
 声を潜めたガルノスにモノケロスが答える。
 「戦闘が始まってからでいい。少しなら戦える」
 目の前にいる敵が騒ぎ始めた。先頭のほうから、誰だかは分からないが隊長が大声で指示を出している。
 『押されるな!その場に踏みとどまって戦え、前線をこの位置より下げてはならんぞ!』 
 「完全に、我々を合流させないようにするための指示ですね」
 「俺達がここにいるのを感づかれてる。俺がここから攻撃を、というか不意打ちを仕掛けるから、混乱に乗じて先に行っててれ。俺も後から行くからよ」
 「……分かりました。ガルノス、気をつけてくださいね」
 「そりゃ、まあ。主様を頼んだぞドレディアさん」
 「俺は自分でどうにかできる。余計な世話だ」
 「形だけでも何か言っておかないとな、と思ってさ。ここで一旦お別れだし。じゃあ、行くぞ!」
 ガルノスは剣を抜いて斜面を勢い良く駆け下りて行った。それ
に気づいた敵は応戦の構えを見せたが、それには構わず敵の中へと斬り込んでいく。
 「いたぞ!」
 作戦通りだ、とばかりに隊の一部が向きと隊列を変えてガルノスを取り囲んだ。ガルノスは舌打ちした。先頭は先頭で正面から来ている援軍と戦いを始めている。
 「其方がネイブか!」
 「人違いだ!我は〈フェニックス〉のラオシア!お相手願おう!」
 乱戦の中隊長同士が戦いを始めた、巻き添えを喰わないようにとその周囲の戦士が二人から距離を置く。一対一の真剣勝負には水を差さないのが礼儀というものだ。モノケロスとドレディアに見覚えのある顔が見えるようになった。
 「あれは、確か〈ペガソス〉の……」
 「ユノー殿ですね。何故ご自身が……いえ、行きましょう」
 二人は斜面を駆け下りて行き、まだ下の道までは高さがあるところから大きく跳んだ。ドレディアが片足のない主を気遣って振り返ると、そこには一角の白馬がいた。
 「モノケロス様、一瞬だけ原型を……?」
 だがそんな状態で敵の中にうまく着地できる筈もなく、人の姿に戻った瞬間モノケロスは地面に体を強く打ちつけた。それを敵が見逃すわけもない。モノケロスは薄れ行く意識の中で覚悟した。
 「全く……世話の焼ける方だ」
 しかし頭上から突然紅髪の青年が現れ、そう言うなりモノケロスの体を片手で抱え上げると、呆気に取られながらも集まってくる敵を剣で軽く薙ぎ払いながら冲稜の森の中に消えていった。
 彼を追った者も、直ぐにその行方を見失ってしまったという。


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