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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第六章:霊長ベンヌ

 ベンヌと名乗った男がフェンリルの前に連れて来られた。彼は整った美しい顔立ちをしていたが、肩が広く数々の闘いをくぐり抜けて来たことを思わせる。露になっている腕にも幾つかの刀傷や火傷の痕があった。
 それらを見て、フェンリルはベンヌの正体を確信し、噂をすれば影とやら、と呟いた。
 「私が何故、貴方をこの部屋にお招きしたかお分かりになりますか?」
 挨拶をしようと思ったところにされた突然の質問にベンヌは戸惑った。それと同時に、初めて会った筈のフェンリルに既視感を覚えていた……外見だけではない。声や話し方、優しげだが威圧感のあるこの雰囲気。
 「其方…ファイヤードレイクか?」
 「ご冗談を、不死鳥ベンヌ殿。いやそれとも、フェニックス殿とお呼びすべきでしょうか」
 「ははっ、見抜かれていたか」
 フェニックスは恥じる様子も無く大声で笑った。噂に聞いていた彼の性格と違いがなかったので、フェンリルは多少安心すると共にフェニックスが多くの部下たちを従えている理由が分かった気がした。
 「なかなか豪胆な方ですね…」
 予想通りだったが、背後から聞こえた声にフェンリルは振り返った。寝ていた筈のケイオスが立ち上がり、力なく微笑みながらこちらへ歩いて来る。
 「以前にお会いした時とお変わりないようですね、フェニックス殿」
 「ファイヤードレイク」
 何故ここに、と言いかけてフェニックスは別の事を口走っていた。
 「似ている…」
 立ってはいるが足下が危ういファイヤードレイクの体をフェンリルが支えた。フェニックスは二人を見比べてみるが違いが分からない…服装が違っていなければ区別がつかないだろう。
 「我々のことはどうでも良い……ご用件をお話し頂けませんか」
 そんなフェニックスの様子を見かねたファイヤードレイクがフェンリルの腕を振り払って言った。恐らく彼の「用件」は自分、ケイオスのことだと分かっている。フェニックスにどう答えるべきか、ファイヤードレイクは冗談半分に考えていた。そして彼の予想通りにフェニックスに尋ねられる。
 「単刀直入に言う。《ガゼル》のケイオスの居場所を知らないか?」
 フェンリルはちらっとケイオスを見たが、直ぐにフェニックスの方に向き直ると不敵に笑った。次に彼が発した言葉は、ケイオスが予測すらしていないものだった。
 「ええ。存じあげておりますよ」
 フェニックスとファイヤードレイクの表情が一瞬で変わった。
 フェンリルはなおも自信満々の笑みを浮かべている。どうするつもりなのかとファイヤードレイクは言いたかったが、彼がそう言ったのには何らかの勝算があるからなのだろうと様子を見ることにした。
 「教えてもらえるか?」
 「何故ですか?」
 フェンリルは微笑んだままで続けた。
 「恐らくフェニックス殿、貴方と私がケイオスを探していた事実は同じ。ならば、ケイオスの居所を貴方にお教えできるとお思いですか」
 強気に出たな、とファイヤードレイクは思った。
 「それは承知の上での申し出だよ。無論、無条件で教えてくれなどとは言わない。条件を提示してくれ」
 「成程。それなら考えましょう」
 「ただその前に、一つ誓いを立ててもらいたい」
 「勿論です。誓いを破れば己を滅ぼすこととなる。誓います、取引が成立したら必ず、ケイオスの居場所をお教えする、と」 
 何の躊躇もなく話を進めていくフェンリルを横目に、ケイオスは笑い出しそうになるのを堪えていた。数々の場所で鍛えられた彼は気持ちを見透かされるようなへまは今まで一度もしなかったが、力を消耗しきっているせいもあってか今回は少し自信が無い。
 「フェンリル、俺は少し休んでくる」
 何かあったのか、と聞きたげなフェニックスに一礼し、ケイオスは「取引」をフェンリルに任せて間仕切りの奥に姿を消した。


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あきゅろす。
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