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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第二章:カリアス

 一人の少年が〈ファーブニル一派〉の砦を目指して天蓋山を登っていた。名をカリアス。警戒しているかのように頻繁に辺りを見回しながら、険しい岩場を少しずつ登っていく。
 「北側から登ったのが間違いだったかなあ」
 カリアスは上空の鷲を見上げながら、独り言のように呟く。鷲は何度か彼の頭上を旋回すると悠々と飛び去って行った。
 「そうだけど…」
 誰かと会話でもしているかのようにそう言って再び歩き始める。もう城から何日も歩いていたカリアスは流石に嫌気が差していて溜息をついた。
 前方の霧の中に影が見えた。今までかかっていた濃霧が風に流されつつあるのだろうか、その影は徐々にはっきりとしてきている。少しするとその輪郭が分かるようになった。
 「砦だ!」
 カリアスは喜びに思わず大声をあげた。
 「これなら今晩には着けるね。しかも夜の方が都合いいんだよね、フレイム?」
 答える声は無かったようだったが、カリアスは満足そうに笑った。
 「ねえフレイム、僕は別に良いけれど…僕を利用する価値ってあるの?」
 鷲の鳴き声が高らかに響き渡った。澄んだ空気と静けさを切り裂くような、鋭く強い声だった。カリアスは思わず肩を竦める。
 「どっちでもいいや。利用されていようが何だろうが、僕は自分の力を使いたいだけなんだから…いいよね、フレイム?」
 鷲が戻って来てどこかに急降下し、カリアスの視界からあっという間に姿を消した。

 その夜、ファーブニルは外に出て空を眺めていた。月も無くいつもよりも星が明るく見える。何の兆候もない星空に「またか」と呟く。
 彼が自室に戻ろうとした時。誰かの足音を聞きつけた。ファーブニルは即座に剣の柄に手をかけた。
 「誰だ」
 低い声で脅すように言うと、誰かの気配のある方へゆっくりと歩いていく。今までに一度や二度の事ではない……誰が何度来ようが彼には関係なかった。
 相手が逃げようとしていないことが息遣いで分かる。刺客にしては堂々としすぎているように思えた。
 ファーブニルはその場から一瞬だけ駆けて何者かのすぐそばまで来ると剣を抜いた。
 「僕は貴方と闘いに来たんじゃない」
 闇の中から甲高い声がした。
 「子供か?」
 「僕はカリアス。沙琳(サリン)城に住んでる」
 カリアスの左手の人差し指から淡い光が出て、辺りを明るく照らした。青白く冷ややかな光は強くなっていき、二人の周りだけ白昼のように明るくなる。
 「ほう。その年で術師か」
 始めは驚いたような表情だったファーブニルがカリアスに賞賛の微笑みを向けた。カリアスも無邪気に見える笑いで答える。
 「術師…かなあ」
 まだ幼く可愛らしくもあるカリアスを見ながらファーブニルは激しく逡巡した。子供が夜を選んで来るのは不自然だ。優秀な子供ではあるが奴は果たして……ファーブニルは結論を出して再び口を開く。
 「暫くの間、ここに留まらないか」
 「え、いいの?」
 予想外のファーブニルの提案にカリアスは喜んだ。というより元々、ファーブニルを説得するつもりだったのが、その手間が省けたのである。フレイムが言うには
 ファーブニルはこちらの意図を察した上でカリアスを受け入れるだろう
 ということだった。
 「良いも何も、そのために来たのだろう?俺は年齢に関係なく、能力のある者は受け入れる」
 「やった」
 カリアスは素直に喜んだが、それと同時にフレイムの言った通りの展開だな、と内心思っていた。



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