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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十章:誤魔化し
 ケイオスは急いで司祭様の邸に戻ってきた。余りに長い時間姿をくらませていたら、「痛い腹を探られる」ことになる。何としてもそれだけは避けなければならない。いくら決心がつくことになるとはいえ時期尚早だ。
 勿論のこと言い訳は考えてあるし、方々に手は回してある。
 「司祭様、ただいま戻りました。遅くなり申し訳ございません」
 戻ると直ぐにルー兄貴から「司祭様が其方を呼んでいた」と知らされた。自分が呼ばれることなど滅多にないことなのでケイオスは少しの不安を感じたが、それは有り得ないと思い直した。
 「何をしていた」
 「フェンリルを探しておりましたが、余りに空が荒れていたため引き返して参りました」
 「確かにこの数日は荒れているが」
 フェンリルの居城は、天候によっては近づくことができないのを司祭は知っている。ケイオスは内心、フェンリルの配下にも術師がいたことをありがたく思っていた。
 「まあ良い。とにかく、其方を呼んだ理由を言おう。…〈ペガソス一派〉を知っているか?」
 「〈ペガソス一派〉?」
 ファイヤードレイクとしては勿論知っているが、ケイオスとしては知らないことにしておこうと彼は咄嗟に決めた。その方が不自然ではないし、余計な疑いをかけられなくて済む。
 「名前くらいは存じておりますが」
 「フェンリルの拠点に程近い……と言っても分かるわけがないだろうな。玉燐(ギョクリン)山の西、瑛鶴(エイカク)山に〈ペガソス一派〉は拠点を置いている。《断罪》対象は指導者ペガソスの息子。他の者を裁く必要は皆無だ。例に因って裁きの妨害をするものは同罪と見なせ」
 「して……《断罪》の理由となる罪とは?」
 伏していたケイオスは少し上目遣いに司祭様の表情を覗った。今日は機嫌がよいのだろうか、いつもよりも心なしか明るく、統治者となったばかりの頃を思わせる慈悲深い表情だったように感じた。
 (これが本来の司祭様の姿なのだろう)
 ケイオスは、温かくさえも見える司祭様の表情に引き込まれそうになっている自分に気づいた。
 だが何故、とも彼は思う。
 (今まで司祭様が俺にこのような表情を見せたことは一度も無かった。それが今日…しかし口調や態度はいつもと同じだから、何か俺に関することがその原因ではあるまい)
 もし自分が原因ならそれは危険なことである気がした。司祭様が裁きの理由に関する説明を始めたのでケイオスは視線を下げた。
 「ペガソスの息子は名をソリッツと言う。いずれは父親の跡を継いで〈ペガソス一派〉の指導者となるべき人物だったが、血気盛んも度が過ぎた。報告によれば奴は奄(エン)城で喧嘩を売られ、あろうことかその相手と、喧嘩を止めに入った城民三名を斬殺した」
 それは確かに裁きの対象となるべきだとケイオスは思った。


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あきゅろす。
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