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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十一章:興奮
 念を押すように司祭様は付け加えた。ちらりとケイオスが見てみると、司祭様の表情は普段のような厳しい表情に戻っていた。
 「一見には喧嘩の事後処理としか思えないかも知れないが…」
 「はっ、《断罪》対象が有力後継嗣ともなれば、味方する者も多い筈。心してかかります」
 「ならば良い。処罰方法についてはケイオス、其方に任せる。そのときの《断罪》標的の様子を見て、ここに連れて来るもその場で死を賜るも決めるが良い。血気盛んな若者のことだ、今になって深く反省している可能性も無いとは言えない…問答無用で殺す必要はないだろう」
 若者、という司祭様の言葉にケイオスは違和感を覚えた。聞いたところによればソリッツはファーブニルより九十歳程年下なだけだから、とうに百六十歳を越えている筈なのだが。……が、ケイオスは敢えてそこには言及しない。
 「承知致しました。必ず、仰せの通りに致します」
 「頼んだぞ」
 ケイオスは一礼し、直ぐに行って参りますと言うと急ぎ足で司祭様の書斎を後にした。別に後ろめたいことがあるから足早に去ったのではない。
 (何年か前から、〈ペガソス一派〉の内部で後継者争いが行われていると聞いている。聞いたときは他人事と思っていたが、今になってその余波が俺のところまで影響することになろうとはな)
 自分が《断罪》に行ったとき、ソリッツを推している派閥は彼の援護をするだろう。そうなればケイオスは何十人もを相手に戦うことになる…普通なら喜んではいられないが、ケイオスは別だった。どうせ一人一人戦ったところで相手にならないのだから、一度に大勢と戦う方がやりがいがあっていい。彼は必死になって戦ってみたいと思っていた。
 或いはソリッツをこっそり逃がそうとしたり、誰かが身代わりになろうとしたりという事もあるかもしれない。「ケイオス」は確かにソリッツを見たことすらないが、「ファイヤードレイク」は何度か彼に会っているのである。もしそんな滑稽な場面を見たら「自分はファイヤードレイクだ」と明かしたくさえなるだろう。…恐らくは彼の自制心でそんなことにはならないだろうが。
 自分でも信じられないほどに、ケイオスは興奮していた。
 (あのソリッツ殿のことだ。〈ペガソス一派〉の全力で俺を返り討ちにしようとするだろう。父親のペガソス殿まで現れるに違いない。ふっ…面白いことになりそうだ。どうしたものかな?)
 普通だったらそれはそれで構わないのだが、そんなケイオスにも一つだけ懸念していることがあった。
 (万が一にでもこれ以上俺の正体が露見することになっては困る…ファーブニルは交渉に応じてはくれたが。この使い方は予期していなかったが、シヴァラの新発明、使わせてもらうとしよう)
 ケイオスは邸を出ると、〈ファイヤードレイク一派〉の拠点へと足を向けた。



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あきゅろす。
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