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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 その頃武井は、小川を和倉温泉に残して、吉岡と共に、金沢医科大学病院へと向かっていた。その間、小川には、大倉警部補と協力して、事件現場の調査と、目撃者情報の収集に当たらせることにした。
 医科大病院へと向かう車の中で、武井は不意に吉岡に質問をした。
「ところで、近藤夫妻が亡くなっていた部屋は、どういう状況だったのかい。」
「一面が焼け焦げていましたね。ただ、警部もご覧になった通り、火災がそれほどひどかった訳ではなかったです。」
「確か、扉があったと思うが、初めから開いていたのかね。」
「いえ。確か、閉まっていました。非常に崩れそうで、危なっかしかったのですが。」
 武井はしばらく考え込んでから、
「見たところ、他の部屋よりも損傷が小さかったような気がしたんだが、どう思うかい。」
 と、吉岡に聞いた。
「うーん。今、言われてみるとそんな気もしますが……。」
「やはりそうか。」
 武井は納得したように言った。
「一体何か閃いたんですか。」
「実を言うと、最初に見たときに、なんとなく違和感を覚えてね。確かあの部屋は、校舎の一番奥にあった筈だから、火はなかなか消えないんじゃないかと思うんだが。」
「しかし、外からの雨で消火されたので、かえってすぐ消し止められたとは思えませんか。」
「そう思ったんだが、校舎のそちら側は、屋根が広くなっている上に、木々が張り出しているから、比較的、雨が直接当たりにくくなっているんだよ。」
「ということは、もっと激しく損傷している筈だということですか。」
「半分はそうだ。しかし、もう一つ問題があって、扉の方は損傷が激しかっただろう。その差は一体何かと考えてね。」
「それで、警部はいったい何故だとお考えですか。」
「私なりの推論だが、おそらくあの校舎は二回焼けているんじゃないかな。おそらく犯人は最初に、近藤夫妻を惨殺してから、二人を部屋ごと焼こうとしたんだと思う。それから後に、完全な証拠隠滅を図って校舎全体を焼いたんだろう。」
 と、武井は言った。
「しかし、耐火クリームが塗ってありましたから、証拠は隠滅できないんじゃありませんか。」
「そう考えるのが普通かもしれないが、私の考えは違うんだよ。いくら耐火クリームといえども、長時間火に晒されれば、その耐久性も落ちてくる。最終的には、校舎は崩れる寸法だったんだ。ただ、崩れるまでの間隔は、耐火性があったほうが長いから、その間に証拠を焼き払えると考えられないか。ただ崩しても、焼け跡から発見される可能性はあったんだ。」
「なるほど、確かにそう考えられますね。しかし、それと扉の損傷と、一体どういう関係があるのですか。」
 吉岡は、納得しかねない顔で、武井に聞いた。
「二回焼かれたと考えると、あの扉は二回火と接していることになる。一回目は部屋と扉、二回目は校舎と扉。おそらく、近藤夫妻の部屋の中に火が移る前に、雨によって火が消されたんじゃないかな。そうすると辻褄が合うと思うんだが。」
「そういうことですか。私は全く考えも付きませんでした。」
「なに、経験とただの勘だよ。そのうち身につくさ。」
 と、武井は言った。

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