十五年越しの殺意(外村駒也)完 ページ:5 その頃武井は、小川を和倉温泉に残して、吉岡と共に、金沢医科大学病院へと向かっていた。その間、小川には、大倉警部補と協力して、事件現場の調査と、目撃者情報の収集に当たらせることにした。 医科大病院へと向かう車の中で、武井は不意に吉岡に質問をした。 「ところで、近藤夫妻が亡くなっていた部屋は、どういう状況だったのかい。」 「一面が焼け焦げていましたね。ただ、警部もご覧になった通り、火災がそれほどひどかった訳ではなかったです。」 「確か、扉があったと思うが、初めから開いていたのかね。」 「いえ。確か、閉まっていました。非常に崩れそうで、危なっかしかったのですが。」 武井はしばらく考え込んでから、 「見たところ、他の部屋よりも損傷が小さかったような気がしたんだが、どう思うかい。」 と、吉岡に聞いた。 「うーん。今、言われてみるとそんな気もしますが……。」 「やはりそうか。」 武井は納得したように言った。 「一体何か閃いたんですか。」 「実を言うと、最初に見たときに、なんとなく違和感を覚えてね。確かあの部屋は、校舎の一番奥にあった筈だから、火はなかなか消えないんじゃないかと思うんだが。」 「しかし、外からの雨で消火されたので、かえってすぐ消し止められたとは思えませんか。」 「そう思ったんだが、校舎のそちら側は、屋根が広くなっている上に、木々が張り出しているから、比較的、雨が直接当たりにくくなっているんだよ。」 「ということは、もっと激しく損傷している筈だということですか。」 「半分はそうだ。しかし、もう一つ問題があって、扉の方は損傷が激しかっただろう。その差は一体何かと考えてね。」 「それで、警部はいったい何故だとお考えですか。」 「私なりの推論だが、おそらくあの校舎は二回焼けているんじゃないかな。おそらく犯人は最初に、近藤夫妻を惨殺してから、二人を部屋ごと焼こうとしたんだと思う。それから後に、完全な証拠隠滅を図って校舎全体を焼いたんだろう。」 と、武井は言った。 「しかし、耐火クリームが塗ってありましたから、証拠は隠滅できないんじゃありませんか。」 「そう考えるのが普通かもしれないが、私の考えは違うんだよ。いくら耐火クリームといえども、長時間火に晒されれば、その耐久性も落ちてくる。最終的には、校舎は崩れる寸法だったんだ。ただ、崩れるまでの間隔は、耐火性があったほうが長いから、その間に証拠を焼き払えると考えられないか。ただ崩しても、焼け跡から発見される可能性はあったんだ。」 「なるほど、確かにそう考えられますね。しかし、それと扉の損傷と、一体どういう関係があるのですか。」 吉岡は、納得しかねない顔で、武井に聞いた。 「二回焼かれたと考えると、あの扉は二回火と接していることになる。一回目は部屋と扉、二回目は校舎と扉。おそらく、近藤夫妻の部屋の中に火が移る前に、雨によって火が消されたんじゃないかな。そうすると辻褄が合うと思うんだが。」 「そういうことですか。私は全く考えも付きませんでした。」 「なに、経験とただの勘だよ。そのうち身につくさ。」 と、武井は言った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |