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十五年越しの殺意(外村駒也)完
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 元西は、武井に許可をもらって、早速捜査を開始した。彼はまず、亡くなった今川愛奈の家族に当たった。
 最初に、元西は、彼女が住んでいた横浜の市役所に、戸籍謄本を見せてもらいに行った。彼の、私立探偵としての最初の仕事である。元西は、捜査に行き詰ったときには、武井警部の名を出していい、と本人から許されていたが、元西自身としては、極力武井に迷惑は掛けたくなかった。
 市役所に車で向かう途中、彼は、どういう理由を付けて、戸籍謄本を見せて貰おうかと考えていた。
「すみません、実は15年前の事件について調べているのですが、今川愛奈さんの戸籍謄本を見せていただけますか。既に亡くなっている方のですが。」
 元西は、受付の人に向かって言った。
「警察の方でしょうか。」
「はい、そうです。」
 元西は、一か八か嘘をついた。
「少々お待ちください。」
 受付の人はそう言って、奥の方へと行った。なにやらひそひそと話し声が聞こえる。受付の人はすぐに戻ってきた。
「あの、警察手帳を拝見してもよろしいでしょうか。」
(参った。やはり、嘘では通れないか。)
「……実を言いますと、警察ではないんですよ。私立探偵の者です。とある方に依頼されて、ただいま調査を行っているところなのです。」
 と、元西は言いながら、懐から名刺を取り出して渡した。ついさっき刷ったばかりの物である。
「どなた様に依頼されましたか。」
 ずいぶんと抜け目無いな、と元西は苦笑した。
「それはできたら伏せておきたいですね。お客様に対して、守秘義務を守るのも我々の仕事ですから。」
「しかし、戸籍謄本というのも、個人情報ですので、そう簡単にはお見せ出来ないのです。」
「んー、仕方ありません。お教えしましょう。警視庁捜査一課の武井和久警部に依頼されました。ご本人に確認なさっても結構です。ある事件の捜査のためで、私用ではありません。」
 と、元西は言った。
「そうですか。では確認を取らせて頂きますので、お待ちください。」
 結局は、元西が折れた形になってしまった。武井警部の名前を出してしまった。私立探偵としては、落第点かもな、と元西は思った。
「確認が取れましたので、ただ今、戸籍謄本を持ってきました。」
 それを見た元西の顔は、次第に厳しい表情になっていった。元西はコピーをとって、急ぎ足で市役所を出た。

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あきゅろす。
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