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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「邂逅」
ガゼル民族はその得意な容姿、赤い虹彩が故に悪魔の民族と言われ、近隣の国々の住民に迫害された。彼らは皆、緑の服を身に纏い、手にしている武器でガゼル民族を虐殺していく。己の家族全員も緑の服を着た男らに殺された。その時己は被弾しながらも一命を取り留めた。その時の銃弾を握り締めながら、己は家族を殺した緑の人間に対する復習で胸を焦がした。しかし己一人では武器の返り討ちに合うのが落ちだ。悔しさを堪える日々の中、五年後、復習のチャンスが訪れた。ある理由で緑の人間らに戦争を仕掛けたいが、戦場に投入する人員も、生物兵器の研究に投資する金も持っていない。しかし戦場への輸送と武器の手配なら出来るというテロ組織がガゼル民族の前に現れたのだ。お互いの利益が完全に一致した。この提案に家族を失ったガゼル民族は二つ返事で応じた。テロ組織の手で首に器具を取り付けられると、意識が落ちた。
 次に目が覚めた時、己は他のガゼル民族と一緒に装甲車両の中にいた。テロ組織によるブリーフィングが行われている。
「作戦は今日から一週間。それを過ぎると緑の人間は撤退してしまう。だから、それまでの間に相手に壊滅的な被害を与えてくれ」
 それだけ言うと、ガゼル民族らの手に必要な装備を渡していった。銃に、食料、飲料水。その中に緑の服が入っていた。戦争をするにはこれを着なくてはならないという。仕方なくそれを身に着けると、ガゼル民族らは戦場に投入された。緑の人間に対する復習の場に。
 そのはずだった。
「それは違うよ。だって銃弾に火薬の臭いしないし。本当に発砲されたら、銃弾に小さな火薬の破片が付いているはずだよ」
しかしそれはまやかしの記憶だった。その事を、一人のガゼル、いや少女に言われるまで気付かなかった。
少女は自分と同じ年齢に見えた。そして自分と同じ装備を纏っているが、その目はありもしない復讐に燃えてなどいなかった。
「何かコードの接続が不十分だったみたいで、その代替記憶は転送されなかったの。だから、私の言っている事は、私が感じたままの事だよ」
 知らないからこそ、世界をまっさらな目で見ることが出来る少女との出会いだった。


 アラシュは基地で出会った四人のガゼル、そして神器を持った将軍直属家臣ヤトエリアスと共にレービスへと向かった。その過程で幾度か帝国兵と対戦し、アラシュは異形の力でことごとく圧勝した。対するアラシュは、爪を使う度に黒かった左目が赤くなり、右目が光を感じるようになった。自身の中を自身ならざるものに浸食されつつあるのを実感した。
 何度目かの対戦にて、帝国軍の近くにいた連合軍の中にダクラの姿を見つけた。
 最悪のタイミングだった。アラシュの意識は異形の者に占有されている。
ダクラを傷つけない自信が無かった。


 帝国軍に奇襲が入った。見ると、それはアラシュだった。久しぶりの邂逅を素直に喜びたかったが、アラシュの変貌を目の当たりにするとその気持ちは沈んだ。
 彼の両腕に、二リーゲル程の爪が生えていた。目も赤と黒のオッドアイから赤単一になっている。そして何よりその喜々とした表情がアラシュらしくなかった。アラシュは絶対に戦場で笑ったりなどしない。立場の違いだけで命を落とした人間を目の前にして、笑う事など出来ない人間だった。
 戸惑いに翻弄されている間もアラシュは最後の一人に止めを刺した。そしてダクラを目にすると、無言で駆け寄り、信じられない事に彼女を抱きしめた。爪の生えた手が、彼女の肩を強く掻き寄せる。
すると頭の当たっている胸元から、強烈に甘い臭いがした。まるで腐った果実のような。
「違う」
 アラシュでない誰かを突き飛ばすと、彼は残念そうな表情をした。
「千年ぶりに再会したのに、冷たいな」
「早くアラシュを返して」
「鋭いな。それも復活までの間だ」
 言うと地面に崩れ落ちた。爪が短くなり、腕の中に納まる。アラシュが起き上がった。
「私は、何かしてしまったか」
 心配する声が聞こえた。本来の彼に戻ったようだ。恐らく一時的だが。
「何も。お互い無事で本当に良かった」
 嘘をついた。さっきの抱擁は、アラシュが望まない行動に違いなかった。
「部隊を置いてけ掘にしたので、戻る」
 言うとアラシュは来た方に戻って行った。

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