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残る爪痕 血脈の果て (薩摩和菓子)完
「機能」
レービスを前に、連合軍が集結した。国の枠を超え、巨大生物を倒す名の元に団結していた。その中でトスキールの陸軍将軍が口火を切った。
「それでは、作戦を説明する。まず我々トスキール軍とネーズル王立親衛隊で敵を陽動、注意を惹き付ける。その間ローゲンの部隊は敵の背後に回り尾部の核をたたく。我々の先頭には義勇軍のフォルザイルが立ち、敵の閃光を盾で跳ね返す。その閃光で敵の核をさらに二つ破壊する。その間にガゼル部隊は敵を錯乱し、帝国部隊は撤退。最後に残った頭の核を、この槍で射抜く。以上だ」
 それぞれの長所を生かした、的確な作戦だった。支持する声は上がれど、異論は上がらない。そして陸軍将軍はその場にいる全ての者に、激励の言葉を送る。
「いいか、皆。昔、千年以上前、俺達の先祖はあいつと戦った。俺達と同じに。そして、勝ったんだ。その話は今まで語り継がれている。その時世界は一つにまとまった。そして、俺達も今、敵味方関係なく、一つにまとまっている。俺達はやれるんだ。今の俺達なら、奴を倒せる。そして、新たな神話に、末代までの語り草になってやろうじゃないか」
 言い終わるや否や、同調する者たちの歓声が場を包んだ。
一方ダクラは別の事を考えていた。アラシュでない誰かが千年ぶりだと言っていた。神話の成立も千年前。そしてあの異様な爪。アラシュの身に、原始的な異変が起こっている。しかしダクラは何もする事が出来なかった。


作戦を開始する宣言と同時に、ギルナ率いる王立親衛隊の銃砲が一斉に火を噴いた。その損害よりも爆音に反応し、「巨大生物」はこちらに振り向いた。それは異形だった。概形は羽の生えた巨大な芋虫だが、その表面は小さな芋虫が縦横に蠢いている、群体だった。生理的な嫌悪感を催す。
「フォルザイル、盾を」
 指示する声が上がった。大きな盾を手にした男が、巨大生物の放つ光線を地面に反射させる。地面に大穴が開き、巨大生物の尻尾が落ちた。凄まじい威力だ。当たったら人間など一溜まりも無いだろう。
神器による反撃が繰り広げられる間も重砲火と肉弾攻撃の手を休めずにいると、もう一度光線が放たれる。今度は腹に反射された。連携を失った芋虫は地面に雪崩落ちる。
銃撃が反射される度に、巨大生物の露になる部分が増える。このままいけば倒せそうだ。その楽観が通用しない相手だという事をダクラは忘れていた。


 ダクラとはもう会えた。作戦も完璧である。アラシュの持ち前の運動能力で十分作戦に貢献出来たはずだ。だのに爪はそれを許さなかった。
巨大生物を目前にして、爪が勝手に腕から這い出てきた。そして彼の意思を、彼の希望を乗っ取る。
アラシュは巨大生物目掛けて駆け出した。その間にいる人間を全て切り伏せ、朱色の風を纏いながら彼は巨大生物の胴体に飛び込んだ。芋虫の流れに乗り、首に到達すると、彼は腕を大きく広げた。
千年の時を経て、芋虫の首の棘は主の所へと戻った。


人狼にはベルゼバブの体の一部を武器として装備したり、ベルゼバブに取り込まれる事でベルゼバブの攻撃力を劇的に向上させたりする機能を実装する予定だった。しかしベルゼバブの開発が遅れた為に、人狼だけでの運用が重視されるようになった。結局ベルゼバブとの協力機能は試験体のみの実装となり、量産型への実装は見送られた。現在は協力機能実装の試験体も単独で運用されている。改良版の研究を始める為、旧版の試験体は不要になったのだ。
そういえば試験体にはもう一つ量産型との違いがあった。戦闘能力解放の回数制限と、寿命が理論上無い事だ。代わりに発動時間が短く、次の発動までのインターバルが長い為、量産型は一度きりで長く解放出来るようにした。それでも精々一週間だが。それに寿命が無いといっても、致死傷を受ければ死ぬのだから、戦場で使われる兵器には意味の無い機能だ。
現地では、試験体と量産型を区別しているのだろうか。

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あきゅろす。
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