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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:乱闘
「逃がすものかぁあ!」
ベラドンナ率いる騎士隊は破竹の勢いを見せ、帝国の部隊を追って森の中まで入っていた。攻城砲を次々と破壊し、逃げ惑う帝国兵たちを追跡する。それぞれ目標を決めて部隊を分割していったところ、気付くとベラドンナは一人になっていた。視界は悪く、いつ敵が襲いかかってきてもおかしくない状況だ。ベラドンナが身構えると予想通り、十人ほどの槍士や剣士に取り囲まれている事がわかった。
「剣を捨て、そいつから降りろ」
「悪いが、それは出来ない!」
ベラドンナは剣を振り上げると、大槍を薙ぎ払い、その槍士を貫通した。男は血を吐きながらくずおれる。
「この女っ」
九人の戦士達が一斉に襲いかかる。必殺の攻撃をベラドンナは上空へ飛び上がってやり過ごしたが、愛兎が犠牲になった。
「アフラートス!」
アフラートスは断末魔の叫び声をあげ、地面に倒れ込んだ。ベラドンナは落下の速度を利用してもう一人剣士を屠る。だが、死に際に彼女のマントを掴んだ剣士のせいでバランスを崩し、相手に反撃の隙を与えてしまった。斬撃、貫撃、打撃。ベラドンナもそれらを受けるのが難しいほど、相手は熟練していた。二人の攻撃を同時に剣で受け止めるが、もう一人の槍をかわす時の隙で脇腹に蹴りを食らう。その衝撃を逆に利用して剣を振り、背後で振りかぶっていた一人を真っ二つに斬り落とす。そのまま一回転して槍を一本折るが、向いた先の正面から剣の切っ先を首元に突きつけられた。
「終わりだ」
剣士は笑ったが、その表情のまま、胸元から血を吹いて倒れた。その背後に立っていたのは……
「ベーオウルフ!」
「駄目だぞ、単独行動を禁じたのは君自身じゃないか」
槍を失い、代わりに短剣で迫撃をかけた男を斬る。ヴェスヴィオスに負けたとはいえ、ベーオウルフも相当の手練だ。
「さあ、立って」
二人は互いに背を向けて敵と対峙した。残ったのは槍士二人に、剣士四人。一気に、飛びかかってきた。
「あんた!」
剣撃を受け流し、その剣士の顔面に強烈なハイキックを決めながらベラドンナが言う。
「あんたを誤解していたようだ。今まで邪険にしてきてすまなかった」
「俺も、言いたい事があるんだが、いいか」
槍士の槍を手で掴んで逸らし、その槍で横の剣士を突き刺しながらベーオウルフが言った。
「君のこと、好きだった」
「なっ」
「覚えているか? 俺が初めて騎士隊に入隊した時、俺の担当教官になったのが君だった」
「あ、ああ、覚えていないでもない」
ベラドンナは顔を赤くしながら敵の剣を柄から斬り落とす。
「あの時、惚れたんだ。君はいつも部下の事を想い、気遣っていた。俺が騎士隊長になれたのは、ほとんど君の真似をしたからだといっても過言じゃない」
ベーオウルフの鋭い突きが槍士の装甲服を貫く。
「だが、立場上言えなかった。自分は帝国の人間だったから……だが、今なら言える。俺はもう、立派なトスキールの戦士だ。君にこの想いを聞いてほしいと思った」
「……」
ベラドンナは無言で槍士の首を飛ばす。ベーオウルフが最後の剣士を薙ぎ倒すと、剣の柄から先を失った男は、悲鳴というには少しおこがましい奇声を上げて逃げていった。
「考えてやろう」
ベラドンナは、ゆっくりと言った。
「一人のトスキールの男として、お前を見てやろう……」
「ありがとう」
ベーオウルフはアフラートスの息を見た。兎は、既に事切れていた。
「俺の兎に乗って帰るか?」
「……ああ」
二人はベーオウルフの“コットンテイル”に乗り、森を後にした。


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