War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完 :陽動 「残った味方の数は!?」 「クランクハイト、フライハイト、本艦の三隻です」 片腕を抱えた副官がかすれ声で報告する。最早、アイグレット艦隊に戦う力は残されていなかった。 「せめて、一矢報いることができたんだ。後は、うまく敵の注意を引きながら撤退するぞ!」 いくつかの船影が、中央に向かって集まり始めたのが見えた。陽動は成功したのである。 「今だ。帆を張れ!」 巧妙に偽装されていた船団が一斉に帆を張り、水面を滑り出した。甲板には、難民を満載している。 「全艦、全速前進! 封鎖を突破する」 ラインハルトの旗艦“ラストロストリウス”は最後尾で船団の指揮を執る。巨大な三角形の帆を張った一等戦艦は、漆黒に船体を塗りあげ、髑髏の旗を掲げていた。 「うおお!! 昔の血が騒ぐぜ!」 「レオナルド、目的を忘れるなよ」 神暦千九年十一月二日。世に言う、コスク湾海戦である。 [*前へ] [戻る] |