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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:激昂
 帝国の偵察兵は、遥か前方に巻き上げられた濛々たる砂埃の中に敵の軍隊を確認した。何と、我々に横腹を向けている。
「前方、トスキール軍主力。我々には気付いていないようです……西に向かっています」
「バイデクルトを狙うつもりか」
カリギュラは笑った。この期に及んで、愚行である。この私が、貴様らに付いて行くとでも思ったのか。さて、こういう事を諺でなんて言うんだったか……。
「おい、レヴァリー。奴らに気付かれないように敵の横を並走しろ。包囲網を張る」
「了解しました」
分隊を出発させ、あとはゆっくりコスクへ向かうだけである。
「オペレーション・ビシージャー、予定通り発動する!」

「なぜだ……!?」
若き陸将は敵の主力は全くこちらへ来る気配がない事に驚愕した。むしろ、そのままコスクへと進軍している。
「正規軍との戦よりも、民間人の虐殺を選ぶか!」
フェルドランスは激昴していた。ベーオウルフを信じたのが間違いか? 違う。もし仮にそうであったとしても、こんな非道な事は、軍人のする事じゃない。
「全員よく聞け! 我々は戻って帝国軍と正面から戦う!」
しかし、銃士隊隊長が引き止める。
「なりません、将軍殿! ここで我らがやられては……」
「構わん! みんな、旋回だ!今なら敵の側面を突ける」
公国軍は再び敵へと矛先を向けた。

一方、コスク湾。アルマダとトスキール海軍との睨み合いが続いていた。
「よし、この作戦で行くぞ」
ラインハルトの一声の後、司令室から足早に士官が出てくる。各々の艦に向かい、出港命令を下すのだ。
「よいか、アイグレット。あくまで陽動だからな」
「わかってますって、師匠……こんなことで死んだりしませんよ」
その五分後、アイグレット艦隊はたった六隻の戦艦で無敵艦隊に攻撃をかけるべく湾を出た。

「将軍殿! 敵は既にこちらに向けて攻撃態勢をとっています」
この台詞が、驚くべき事にトスキールの陣営で聞こえた。
「馬鹿な……帝国の連中に読まれていたというのか!」
フェルドランスは、目の前が真っ白になった。自分が今までこんなに狼狽した事がないのだ。それに追い打ちをかけるように、長剣士がどなり声を上げる。
「後方! 敵の別働隊です」
「何、包囲されただと!」
こうしてはいられない。フェルドランスは自分に冷静になるように何度も言い聞かせた。乾いた口の中が砂の味でいっぱいだ……さて、敵はどんどんと包囲の輪を狭めてくる。何か対策を講じなくては。
「防御円陣! 全軍密集後、敵軍を突破する!」
まだ輪は完成していない……これが最後の望みだった。


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