War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完 :危機 「あれがトスキールか」 大型戦艦の先端で、ローゲン海軍無敵艦隊の女提督であるネレイデは一人呟いた。全く、こんな小国の制圧のためにアルマダまで動員するとは、フューラーシャフトも堕ちたものだ。ふと、本国に残してきた弟の事を考えていると、背後から声をかけられた。 「提督殿。まもなく、指定の座標です」 「わかった。艦隊を左右に展開し、湾を封鎖。出港しようとする船は全て撃沈しろ」 「了解しました」 旗艦の左右の巨大な帆を張った戦列艦が一斉に舵を取り、無敵艦隊は大きく広がった陣形となった。コスク湾を封鎖したのである。この様子はコスクからもはっきりと見えた。 「くそっ! あと一歩のところで……!」 水平線に浮かぶ無数の影を見て、海将は舌打ちをした。弟子のアイグレットも異変に気づいたようだ。 「これじゃあ、港を出ようがありませんね」 「アルマダだ……輸送艦隊を呼び戻せ。作戦を練り直すぞ」 ラインハルトは足早に埠頭を去った。冗談じゃない。こんなところで死んでたまるか……。 「どこへ行く、レオナルド」 呼び止めた相手は、ヴェスヴィオスだった。 「公王さん!探してましたよ」 「一体何があったのだ」 「それが、港を封鎖されちまったもんで……」 「それぐらいの事で狼狽える、レオナルド・ラインハルトなのか? お前の才能があれば、これしきの包囲網、突破して見せろ」 「わ……わかりました! 勿論、お任せください」 先ほどとは違った気持ちで、司令室に入る。やはり、公王陛下は立派なお方だ。俺様の才能をよく理解している。 風の吹きすさぶ草原に並ぶ、十万のローゲン軍。それといくらか離れて対峙するトスキール軍、一万五千。最早、どちらが勝つのかは目に見えていた。先鋒のベラドンナが心配そうに陸将を振り返る。 「どうするおつもりですか」 「まずはぎりぎりまで敵を引きつけるんだ。各隊前進!」 騎士隊を先頭に、トスキール軍は風のように疾走する。帝国軍が見えたところで、フェルドランスの合図で一気に右折した。 「このまま敵のバイデクルト軍港の方向に向かう!なんとしても、敵に我々を追撃させるんだ」 (もしベーオウルフがうまくやったのなら、付いて来るはずだが……) [*前へ][次へ#] [戻る] |