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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:交渉
 コスク城メインゲート前。一万五千の兵たちが戦闘隊形で整列している。若き陸将はいつものうるさい巨漢がいないことに気付いた。
「あれ? パイクスタッフは? どこ?」
「彼なら、特務で出張中だよ」
そこへ呼び出された公王ヴェスヴィオスが現れた。見るからに、嫌そうな表情だ。
「あ、公王陛下。これから出撃します」
「フェルドランス、話がある」
「何ですか」
「お前、以前のアイフェル会戦での敵の詳しい編成を知っているか」
「もちろん!装甲歩兵三万と、その他輸送人員五万の混成軍ですね」
「その五万人は、占領された国々の奴隷だったそうだ。帝国国民ではなく、旧トグレアの民だ。お前は、彼らも殺してしまった」
「そ、そんな事が……」
「だから、今度はもっとましな作戦にしてくれないか」
「しかし……申し訳ございません。考えときます」
「お前も知っての通り、今回の作戦目的は戦うことではない。可能な限り敵を首都から遠ざけ、国民が脱出できるだけの時間を稼ぐんだ」
「わかりました」
ヴェスヴィオスに敬礼し、目をしばらく閉じた後、フェルドランスは兵士たちの歓声の中へ歩んで行った。先頭に立ち、振り返る。
「みんな、行くぞ!」
騎士隊を先頭に、全員一気に駆け出す。このとき、帝国軍は既にコスクのすぐ東にあるエルツという町に到着していた。

「お入りください、トスキール公国宰相殿」
 ネーズル王国の外交官ズヘニグが待つボレイゲン特設外部対応庁の応接室の中へ宰相アルバート・ナイファーは一人で入って行った。
「失礼致します、ズヘニグ殿。ではまず、なぜ私がここへ来たのかはお分かりでしょうが、確認します」
「はい」
「現在、トスキール公国はローゲン帝国と交戦状態にあります。今の所大きな被害はありませんが、この状況がいつまでも続くとは考えられません」
「ほう」
「そこで、我々は貴国と軍事同盟を結び、戦力を糾合して帝国軍に立ち向かい、また我が国の避難民の受け入れをお願いしたい。これが我々の要求です」
「……無理がありますな」
「なぜ?」
「まず、我々には帝国と戦う理由がない。しかも、この戦争は貴国から始められたとも聞き及んでおりますが」
「それは……」
「それに、我が国には貴国の国民を全て生活させるだけの土地がありません。一時的に収容できたとしても、それはいずれ混乱を招きます」
「そう言うだろうと思いました。しかし、これを見てはどうでしょう」
ナイファーは持参した細長い箱から、重々しく一本の黒い槍を取り出した。ネーズルの外交官はそれを覗き込むと、少し驚いた声を出した。
「こ……これは!」
「七種の神器の内の一つ、シクザールの槍です……いかなる的をも外さぬと言われる槍です。トスキール家に代々伝わるもので、我々が永遠に古き盟約で結ばれている事を体現しているのです」
「それを、どうしようと言うのですか」
「友好の証として、差し上げます」
一瞬の沈黙。
「フン! そんな話は、ただの神話にすぎませんな。そのような事があったかどうかすら定かではない。巨大な化け物との戦いなど、そんなことが実際にあったと思っているのですか」
「な……何をおっしゃるのです。あの戦いは神話などではありません。現に、証拠がここにあるではありませんか」
「しかし……」
その時、ナイファーは初めておかしいと思った。隣同士の国の間で、こうも認識が変わることがあるのだろうか? 非情な外交官を何とか説得しようと、宰相はなおも続けた。
「その上、ローゲン帝国がこの北ネーズルの地を狙っているのは明らかです。トスキールとネーズルの間には障壁と言えるような山脈も川もなく、公国が陥ちれば王国もまた危険にさらされます。今までと違って山地の守りも通用しなくなってしまうのです」
「ですが、断わらせてもらうと言ったら?」
「いつまでもここから動くつもりはありませぬ」
「困りましたな」


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あきゅろす。
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