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マグの足跡(千葉)完
めがみふたたび
そして、マグは宮殿で夢のようなひとときを過ごした。
普段は絶対にありつけないような食事をしたり、あまりにも広すぎる風呂に入ったり…。
旅はこれだからやめられない。
一通り、おもてなしが終わったところで、マグは今日泊まる部屋に案内された。
本当に豪華な部屋だ。ベッドはふかふか、隅々まで施された金細工、大きい鏡…
本当にこの国、財政難なのか? 少なくとも昔は本当に金持ちだったんだろうな。
「はぁ」
自分以外誰もいない部屋で、マグは一人ため息をつく。
そのままベッドの上に倒れこんだ。眠気が襲ってくる。
『……』
「そろそろ寝るかなぁ…」
『……マグさん』
「!?」
ふいに名を呼ばれ、ベッドに横たわっていた体を思わず跳ね起こした。
この声は、女神――――
「め、女神…いつの間に…」
目の前に、女神がいた。
『ヤマテノを倒してくれたんですね』
「あ、ああ…」
『ありがとうございます。本当に、感謝しています』
ペコリ、と女神はお辞儀をした。…そうだ。
「…あのさぁ」
女神には訊きたいことがある。
「あんたがヤマテノを生み出したって、本当?」
『………!!』
女神は穏やかな表情を一変させた。
「ヤマテノが言ってたんだ。
ヤマテノは元王族で、女神の力で、モンスターになったとか何とか…」
マグがそう言うと、女神は流石に黙り込んでしまった。しかし、暫しの沈黙のあと、女神は口を開いた。
『…知られてしまいましたか』
その声には動揺の色が混じっていた。
すこし躊躇う仕草を見せたが、女神は続けて話す。
『…奴は元々ミガサの王族の一員だった訳ではありません。
…そう、彼は何の変哲もない普通の家庭の子でしたが、ツノを生やした人間として生まれました』
「………」
『もっとも、彼は自分を王族の者だと思い込んでいたようですが…』
「…で、どうしたんだ」
マグは急かすように言った。
『……私はその時、彼のツノにただならぬ力を感じていました。
そこで私は彼にチャンスを与えようと思い、今まで彼に潜在していた力を全て引き出してやりました。
将来この国を守る者となれば良いな、と思っていたのですが』
ヤマテノが、力を与えるとかどうたらこうたら言ってたのはこのことか。
女神は話を続ける。
『しかし彼が持っていたのは、力に対する果ての無い欲望だけでした。
そして、その欲望をかなえるための最も合理的な姿、モンスターに彼はなりました。
…こうしてミガサの魔物・ヤマテノは誕生したのです』
マグはへぇ、とだけ返した。正直、他にどう言えばいいか分からなかった。
『本当に、すみませんでした』
もう一度女神が頭を下げる。
「…………、謝るんだったら他に謝った方がいいよ」
『え?』
女神がこちらの方を向く。マグはそっけなく言う。
「俺はむしろ、恩恵を授かってる方だからな」
『……そうですね。他の人に、謝らないといけない』
女神は俯いた。
その「謝らなければならない」対象にヤマテノが含まれているかどうかは分からなかったが、
少なくとも後悔に駆られているということだけは、先程の女神の口ぶりから伝わってきていた。
そして暫くの沈黙の後、女神は突然『では、さようなら』と言い残し、その場から消えた。
マグは窓の外の夜空に目をやった。女神の放つ神々しい光が、闇夜に紛れているような気がした。
その光は徐々に遠くなっていく。
おそらく、もう会うことはないだろう。

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あきゅろす。
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