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蒼空に散る (紺碧の空)完
天藍の空
 そう言えば、朝食をとっていなかったのでラウンジに置いてあった冷たいスープを飲んだ。小さく、堅いパンをほおばる。
「それ、スープに浸けるとうまいぞ」
グスタフに、初めて話しかけられた。彼はそれだけ言うと、もう話すことはなかった。彼が読んでいる雑誌はなんだろう。見たところ軍事関係か。確かに、このスープとパンは合う。
「休暇、か……」
静かだった。ここ暫く俺は前線にいたので、常に轟音、爆音、銃声に脅かされていた。ここの時間は心地よい。ゆったりとした、気だるい空気が全てを包み込んでいた。太陽は既に高く昇っている。
「お二人ともいらっしゃったんですね」
階段から、彼女が降りてきた。随分疲れているようだ。崩れるようにしてソファに座った。
「グスタフさん、それ月刊プラモデルですか」
「ああ」
なんと。
「どんなの作るんですか?」
グスタフは答えない。彼女は、こちらに助けを求めてきた。
「そう言えば、お名前聞くの忘れてましたね」
「ローベルト・リヒナーだ。君は?」
「スフィア・ヴァンクィッシュ。ヴァンクィッシュ伍長です」
スフィアはふざけて敬礼した。
「良かった。ここのところずっとつまらなかったんですもの」
彼女は手を差し出した。握手に応じようとしたが、ルームキーを渡されただけだった。
「そこの廊下の先にある、3号室です。何かわからないことがあったら、私は管制室にいますから」
スフィアは伸びをすると、最後のパンを持って二階へ上がって行った。
 
 俺は、部屋で寝た。昨日は0時に向こうを出発したので、ほとんど寝ていないのだ。ベッドもパンと同じように小さく硬かったが、寝具としての機能は十分果たしていた。つまり、俺が起きた時には2時を回っていたのだ。ラウンジに出ると、グスタフはまだ本を読んでいた。天井がドタドタとうるさい。そうか、これで起きたのだ。俺は興味半分に二階へ上がってみることにした。
「リヒナーさん、ちょっと手を貸して下さい!」
スフィアがドアの間から呼んだ。何だ、何があったんだ。
「オペレートを手伝って下さいませんか」
彼女は俺にヘッドホンを渡しながら言った。問答無用じゃないか。
「俺は経験ないですけど」
「お願いします、数値を見て私に教えて下されば結構です」
俺の時はその“数値”は見えていなかったのか。まあ、余程の事がない限り、ヘリが着陸を失敗することはないのだが……。
「そこの席に座って下さい」
スフィアの指示に従う。何やら、レーダー画面のようなものがあった。
「This is Auzat tower radio check. How do you read?」
スフィアが言うと、俺のヘッドホンにも答えが返ってきた。
「Loud and clear. This is D-06 a4」
「Also loud and clear. Rader contact, 7 miles from touch down right of course heading 320」
この声はどこかで聞いたような気がする。
「Not acknowledge furthe transmissions 5 miles from touch down. On glide path. Begin descent. I say again begin descent now」
俺は、グライドパスの角度と、滑走路からの距離を彼女に伝えた。彼女はと言えば、遠距離レーダーと進入角度計を交互に睨んでいる。
「Cleared to land runway 01 left wind 240 degrees at 8 knots. Heading 310 right of course correcting. Going above glide path. Adjust rate of descent」
遠くに小さな機影が見えてきた。
「Heading 310, 3 miles from touch down. Very slightly above glide path」
あれは戦闘機だろうか。機体番号を言われてもわからない自分が悲しい。
「Turn right heading 315. Approaching guidance limit」
わかった。あれは複座の偵察機だ。
「1 mile from touch down. On course. On glide path」
機体の模様がはっきり見えるまでになった。三枚の垂直尾翼が特徴的である。
「Guidance limit, take over visually. Contact tower after landing, wind 245 at 5. Thank you」
「Thank you very much」
見事な着陸。寸分の狂いもなく、滑走路の端に接地した。


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