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縹(禮晶)完

王城は呆れるほど広くてきらびやかな場所であった。
「この王城、作ったの誰だよ…」
余りの広さに思わず縹がぼそりと呟くと、横から、
「え、大工さんに決まっているではないか。」
子供がよく言う事ではあるが、まさかそれを皇族の口から聞く事になると思っていなかった縹は瞠目した。
「うちの先祖はそっくり返っていただけだぞ、多分。」
玉は前を向いたまま縹だけに聞こえる声量で囁いた。
「……………。」
とんでもなく口の悪い皇太子だな、大丈夫か…とも思ったが、それよりも前に縹はこの玉という皇太子殿下を脳内決議で既存概念の枠から追放する事にした。
そうでなければ、きっと彼には失礼だろうから。
そうこうしている内に帝がいると言う正殿に到着した。
「…………。」
どれだけ予算と手間をかけても良いと言われたので限界まで華美にしました…そんな大工達の意気込みが物凄くよく分かる、ある種の芸術作品である。
「大工さん頑張ったな…」
「そう思うだろう?」
正殿は外見も凄かったが中身もそれに劣らず…派手だ。
派手と言うか使われているのが金銀、宝玉、夜光貝に象牙、鼈甲の類の綺羅綺羅しいもの――文字通り、この世の贅を一箇所に集めたという様な風情なのだ。
「あ、因みに其処の壁際のは硝子玉な。」
子供の頭ほどの大きさの翡翠の大玉、ではなかったらしい。
翡翠の大玉、……翡を、思い出してしまった。
彼の本体もきっと……
その時、声を長く引いて随身の者が帝の御成りを告げた。
程無くして帝が玉座に着席する。
「途次、何者かに襲われたというのは真なのか。」
「はい。危うかった所をそこの者に助けられました。」
帝は平伏している縹に面をあげる様に命じた。
そして目があった瞬間、……微かに表情を変えた。
「縹色の瞳とは珍しい。名は何と申す。」
「縹と申します。」
そのままだな、と帝が呟いたのを縹は確かに聞いた。
流石は父子というか何というか…
「玉の護衛の事、余から正式に命を下す。励め。」
やだ、とか言ったらどうなるのかなとは思ったものの、今は翡の仇討ちという大事な目的がある。
縹は大人しく頭を下げたが、誰かが意義を唱える声が聞こえた。頭を上げたかったが、それは無礼行為だ。
「兄上、その様な素性も知れない怪しげな下賤の者に、玉の護衛を任せるおつもりなのですか?」


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