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蛟竜(禮晶)完
拾捌
世界が色を失った。

人も建物も皆、白く輪郭を失ってしまっている。
「影が…」
誰かが呟いた。強すぎる光源が天にあるためか、何の影も落ちていなかった。
と、言うよりも地面に凹凸があるのかさえも見極め難い。まぶしすぎて己の足元すらよく見えない程なのだ。
だが、目の見えないコウには光は一切関係無い。
目を覆いうずくまっている竜を条の刃の下から引っ張り出して安全な場所に避難させる。
「コウ、これは、一体?」
「私にも一体何事なのか全く分からない。」
だが、恐怖の大魔王の降臨、ではなさそうだった。
上空にいるヒトならざるモノ、天にある時点でヒトではなさそうだが…は有り得ない程に純粋で濃密な神気を帯びていた。
どうやら、かなり高い位の神仙が来臨しようとしているらしい。
神剣の儀。来臨。まさか、だが………
「天帝陛下の御来臨…!?」
「何っ?」
コウの呟きはざわめきのなかで大層間合いよく響き、辺りは一様に静まり返った。
「何という事だ、天帝陛下の御来臨とは…」
一番先に衝撃から立ち直ったらしい廉は上空を見上げようとしたが、次の瞬間悲鳴をあげて地をのたうち回る羽目になってしまった。
「天帝陛下は日輪の象徴。それを見上げてただで済む筈はないと忠告しようと思ったのに」
「いや、しなくて良いから。」
コウの呟きに竜は言い切った。条の裏切りによるショックも天帝陛下来臨に少しは薄れたらしい。
心の中でコウは天帝に感謝した。


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