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妖(和麻)完
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 勇人が再び歩き始めてからは驚くほど順調に雑木林を抜けつつあった。行く手を阻んでいた草木が打って変わり道をあけているようだ。しかも不思議なことに木の枝などでできていた引っ掻き傷の痛みも消えていった。
(このまま進めば絶対家に帰れるぞ)
そんなことを思いながらずんずん歩いていた。
 ガサリと茂みの音。
 振り返る間もなく何かが高速で勇人に飛びかかってきた。しかし勇人は体を上手く捻りその攻撃を避ける。攻撃を掠めた服の端が浅く切れる。
その何かは避けられたと分かると木に止まり、勇人の方を向いた。だが勇人はあまりにも突然のことに頭が真っ白になっていた。
(えっ、今体が勝手に……)
「おい、お前」
勇人ははっと我に返り声がした木の上を見上げた。次の瞬間勇人は言葉を失った。声の主は実に変わっていた。薄い黄緑色の髪を短くしており、目は金色で猫を彷彿させる縦長の瞳孔が目立つ。そして肌は透けるように白い。だが、目元に緋色の刺青がある。彼は人間の型ではあるが、容姿や雰囲気が人間とは全く異なっていた。第一に人間は彼のような速さでは動けない。彼は木の枝に仁王立ちし、勇人のボールを弄んでいた。そのボールは間違いなく勇人の探していたものだった。
「あー! それ俺のボールだぞ。何で持っているんだ。返せ!」
「何、お前は俺が見えるのか」
彼は驚いたように目を大きく開いた。何故そんな当然のことを尋ねるのかと勇人は怪訝そうな顔をした。
「何言っているんだ。とにかく、それを返せよ」
「煩いな。ここに投げ入れたのはお前だろう」
仕方がないなとボールを勇人の方に放る。ボールを受け取って勇人は弁償から逃れられたとほっと胸をなでおろす。
「というか、お前いったい何者だ? いきなり飛びかかってくるし、動きや見た目がまるで人間と違うけど……」
「俺の名前は天花。じゃあな」
勇人の言葉を切って天花と名乗った彼は名乗っただけでそのままくるりと背を向けて雑木林の奥へと消えていった。
 その場に残ったのは勇人一人だった。


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あきゅろす。
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