SPIRIT OF MASTER ††† 母さんには言えない。 他の子と仲良く出来ないなんて言ったら、母さんは凄く悲しむし、怒るかもしれない。 僕のことを要らないって言うかもしれない。 僕は近くのオジサンに相談した。 オジサンは優しくうんうん、と聞いてくれて、僕の頭を撫で、タテガミを毛繕ってくれながら。 「あー、子供の頃にはよくある話だよ。大人になれば仲良く出来るさ。…それに君だって、ちゃんと仲良くしようとしないからイケナイんだぞ。」 そう言って、ヒヒン、といなないた。 …僕は大人に相談するのを止めた。 大人になったらどうにか出来るなら、僕が我慢すればいいんだ。 「それで、誰が救われるんだい?」 静かな問いかけに振り向いた僕の目に留まったのは、人間の子供と良く似た、人間でないヒト。 もうすぐ眠る時間だった僕は飛び上がる程、驚いた。 「…誰…?」 「ボク?ボクは伯爵と呼ばれているよ。君は?」 ハクシャク、は近付いてきて僕の頭に触れる。 ゆっくりと撫でられて、僕はゆっくりと息を吐き出した。 それで、僕は今まで緊張していたことに気が付いた。 「僕、フーガ。」 「そう、フーガ。君は、我慢しなくていいんだよ?もっと、痛い、苦しいと言わなければならない。」 僕は首を傾げる。 それは悪い子だ。 ハクシャクは僕に悪い子になれって言ってるの? 「…それは悪い子、ではないよ。どんなに立派な大人だって、怪我をすれば痛いと言うんだ。」 「…言ったら、変わる?」 「言い続ければ。なにもかもに疲れて諦めてしまう前に、少しだけ、言い続けてみよう。…誰か一人でも、解ってくれる人がいれば、君は痛くなくなる。」 僕は頷いた。 明日、目が覚めたら、ちゃんと言おう。 母さんにお話聞いてって。 皆に、仲良くしたいって。 追い掛けられるのは嫌だって。 父さんに会いたいって。 ちゃんと、言おう。 僕はハクシャクに御礼を言うと、肩を竦めて身体を丸めるようにした。 なぜだか、涙が溢れて止まらなかった。 ハクシャクは、僕を見てくれた。 僕の名前を呼んでくれた。 目が覚めたら、きっとハクシャクはいないけど。 ハクシャクが僕を見てくれたから。 名前を呼んでくれたから。 まだ、会えていない誰かが、僕を見付けてくれるかもしれない。 例え、この先、誰もいなくても、僕は。 それだけで、生きていけるような、気がした。 [BACK][NEXT] [戻る] |