SPIRIT OF MASTER
†††
「やれやれ、仕方がないな…。」
眠る縞馬の子供をそっと撫でて、黒衣の少年は独り言を零す。
彼の苦難は、彼の所為ではない。
彼の所為ばかりではない、と言うべきか。
周りの大人に余裕がないのだ。
それは子供達に伝染する。
等しく、虐げられた楽園で、ここが幸せなのだと言い聞かせながら、大人達は夢を見ることもなく、疲れて眠る。
「せめて見せてあげよう。君達が、望む幸せを。」
伯爵が取り出した小さな袋は、引き絞りの紐を解くと中身の粉が飛散した。
「天翔けるペガサスの見る夢の粉末だ。…良い夢を」
夢の粉末は、彼等をサバンナに導いてくれる。
過酷な環境と、潜む数多の危険。
けれど、彼等は自由に走り回るだろう。
何物にも変え難く、生きる喜びを謳歌するだろう。
目覚めと共に、儚く叶わぬ夢と気付いても、夜ごと夢に想いを馳せるなら。
確かに、変わるものが得られるだろう、と伯爵は悲しげな笑みを浮かべる。
「残酷なのかも、しれないが。…けれど。」
希望は、希望。
果たされずとも灯を燈す。
檻に囲まれた楽園で。
今夜も動物達は夢を見る。
果てない、天翔けるペガサスのように。
Fin
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