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幻想
30






「そうですか……」

私の言葉に、アルベルト殿は安堵の息を溢された。恐らく昨日からずっとラビィのことを気にされていたのだろう。何て、優しいお方なのだろうか。

「すみません、用はそれだけです。失礼しました」

わざわざラビィのいない時間を狙って来たのだろう。きっとこれからも大量の仕事があるに違いない。早々に部屋を後にしようとするアルベルト殿を、私はつい引き留めてしまっていた。

「アルベルト殿」

「……何でしょうか?」

「一つお聞かせ下さい。アルベルト殿とラビィは……一体どのような関係なのですか?」

ラビィには聞けなかった問い。二人の関係の核心に迫る質問。同性のアルベルト殿だから聞ける問題だった。不躾な行為ではあるが、この時の私には理性より好奇心が上回っていた。

「……ラビィは……ラベンナは私の大切な妹なのです」

それだけ告げると、アルベルト殿は足早にこの場を後にされた。
多忙な身であるのと同時に、きっとラビィに会わないようにされていたのだろう。

アルベルト殿の答えは、私の予想を大きく超えていた。
まさか、アルベルト殿とラビィが兄妹だったなんて。
兄妹ならば、旧知の仲というのも頷ける。しかしラビィは何故私が昨日知り合いかと聞いたときに、素直にそのことを打ち明けてくれなかったのだろうか。
それにお世話になってきたなどと、他人行儀な表現をしたのも不思議だ。私の想像する兄妹像からは掛け離れている。

しかしそのことについてラビィに問い掛けるのはタブーだった。ラビィの口から聞いたことでもないのに、本人に聞くことなどできない。いつか、ラビィから話してくれる日が訪れることを願うしかない。

アルベルト殿の来訪により中座していた鍛錬を再開することにした。ラビィはまだ当分は洗濯場から戻っては来ないだろう。

「よお!元気にしてたか?」

突然そう言って叢から現れたのは、殿下だった。
久しくお会いしていなかっただけに、この来訪にはとても驚かされた。前回気まずい別れ方をしてしまったため、殿下には嫌われてしまったと思っていた。しかし今現れた殿下からは、この前のことを引きずられている様子はない。

「お久しぶりです、殿下」

お元気そうで何よりですと続けると途端、殿下の顔が不服そうに歪む。一体どうされたのだと思っていると、私が答えを出すより先に殿下から正解を告げられた。

「いい加減それ止めろよな」

「それ、とは……?」

「その、殿下って呼ぶの!そんな形式ぶった呼び方で呼ぶなよ。あと、その敬語!ラウルの方が年上なんだし、年下の奴にいちいち敬った言葉遣いするんじゃねえよ」

どうやら殿下の不満は私の態度にあるらしい。
仮に殿下が殿下でなく、街の子どもであれば尤もな意見だと、直ぐにでも対応を変えることもできるが、何分殿下が殿下である以上、私と殿下の関係は主人と従者なのだ。改まった態度になるのも仕方がない。

しかし、それが殿下にはお気に召さらないようだ。






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あきゅろす。
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