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幻想
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「別にいつもとは言わねえよ。でも二人だけのときはいいだろ?」

な?と強要してくる殿下の強い眼差しの中に、僅かな寂しさにも似た感情を垣間見てしまった。そんな顔を見てしまったら、断るにも断れなくなってしまう。殿下の心の寂しさを知っているからこそ余計に。

「ではお言葉に甘えて……カトル様」

「………結局、様かよ」

「ああ、流石にこれだけは譲れないな」

以前不満そうな態度は崩さないものの、カトル様の顔に確かに喜びが宿ったのが分かった。

「ところでカトル様。今日はもうあっちの用事は済んだのか?」

暗にベレニーチェ様の自室へはもう行ってきた後なのかと聞いてみた。
いつもならもっと遅い時間に来るのに、今日は比較的早い時間帯だ。もしかしたらベレニーチェ様のところへ行かれるより先に私のところへ寄られたのだろうか。
そんな私の予想は見事的中していた。

「最近、母様の機嫌がよくないんだよな……傍から見ても分かるくらい。ラウルなら何か原因知ってるかと思って」

どうやらカトル様が先に私のところへ寄られたのは、このことが原因だったようだ。
例えカトル様が頻繁に後宮に忍び込んでいるとしても、現在後宮で起きている事件は知らないようだ。まあ事件というのも何だが。恐らくベレニーチェ様が不機嫌なのは、エーリオのことが原因だろう。しかしことがことだけに、原因を知っているからと言って、カトル様に教えて良いものか……。

「すまない、思い当たることがないな……」

迷った挙句、私はカトル様に伝えないことを選んだ。
流石にまだ七つになられたばかりのカトル様には早過ぎる。これが普通の男女の関係ならばいざ知らず、男同士の恋愛など聞かせられるものではない。

「そうか……」

目に見て落ち込んでしまったカトル様に、良心が痛む。しかしだからと言って伝える訳にはいかないのだ。

「ラウルなら知ってるかと思ったけど……仕方ないな……。………ああ、そうだ!それならラウルも見てみてくれよ!直接見たら、もしかしたら何か原因が思い浮かぶかもしれないし!」

「えっ!?いや、流石にそれは……」

まさかの展開に断りの言葉もはっきり出ない。
直接見るということは、ベレニーチェ様の住まいまで私も行かなければならないということになる。例え私も妾后であると言っても、男であることは変わらない訳だし、男の私が女性の住まいへ勝手に行くことは不道な行いとなってしまう。そもそも他の妾后の陣地に許可なく入るのは禁止されている訳であるし……。

「なあ、いいだろ?ちょっと行くだけだし。いつも使ってる道なら誰にもばれることないし。子どもには分からないけど、大人には分かるかもしれないだろ?だから、頼むよ……」

強気なカトル様からは想像もつかないほどの弱った声で言われてしまうと、頷かない訳にはいかなかった。

了承の旨を伝えると、カトル様の顔に満面の笑みが浮かんだ。
原因を知っていて敢えて伝えない私にすれば、直接見たところで何の意味もないのだが、それでカトル様が納得してくれるのならば引き受けるしかないだろう。
あまりのはしゃぎように一抹の罪悪感と不安を抱きながら、私はラビィへエーリオの下へ向かうという手紙を残して、カトル様がいつも通られる隠し通路への入り口、叢へと消えていった。





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あきゅろす。
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