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幻想
23




ヨルダン様が訪れて下さるようになって暫くしてから、エーリオはまた昼間のお茶会に顔を出すようになった。勿論、それには私の同行を条件としてだったが。
エーリオが部屋に籠りきりになってからは、私も足が遠のいていたのもあって久し振りに彼女たちに会うことになる。旧友に会うような心地で、お茶会に向かう。

そんな夢見な気持ちは、直ぐ打ち崩されることになる。

隣に並ぶエーリオは、血色も良く、とても生き生きとしている様子だった。ヨルダン様とうまく行っているのだろう。同性同士と考えると少し複雑になるが、エーリオの喜ぶ顔には変えられない。

「こんにちは、皆さんお久しぶりです」

お茶会の舞台にやって来た私たちは、まず始めに久し振りに会う方々に挨拶をした。
しかし、それに対し挨拶が返ってくることはなかった。もしかして聞こえなかったのかと妾后の反応を奇妙に思いながらも言及することなく、席に着いた。
周りの妾后方を見ると、何やらコソコソと内緒話をしているようだった。内緒話に夢中で挨拶が聞こえなかったのだろうか?それにしても、皆一様にこちらに視線を向けている気がする。所々漏れ聞こえるのは、まさか……とか男のくせに……といった要領を得ない言葉だけだった。しかしその声色から決して良い意味で言っているだけではないことが分かった。
場の雰囲気も頗る悪い。その印象は、隣のエーリオにも伝わっているようでここに来てからずっと不安そうな顔をしている。あまりにもその姿が可哀想で、声を掛けようとした時、主催者であるアナスタシア様がいらっしゃられた。

「皆さま、よくぞお集まり下さいました。ラウル殿、それにエーリオ殿も。久し振りに顔を見せて下さって嬉しいですわ」

穏やかな笑みを浮かべるアナスタシア様に、ほっと緊張の糸が途切れた。
もしアナスタシア様からも不穏な空気を発せられたらどうしようかと思っていた。他の妾后方とは違い、アナスタシア様の様子に変化は見られない。
わざわざ名指しでお声をかけて下さったこともあり、私はその場で会釈を返した。それを見て慌ててエーリオを隣で会釈をしていたが、慌てていたためあまりにも不恰好になってしまっていた。

「皆さま、ぜひごゆるりとこの時、この瞬間をお過ごし下さい」

主催者の挨拶が終わると、後は方々自由な時間となった。
いつも通り、皆お茶を飲みながら会話を楽しんでいる。
唯一いつもと違うのは、私たちに声を掛けてくるものが誰一人いないということだ。いつもならば、私とエーリオには若い妾后らが中心によくお声を掛けて下さっていたのに、だ。
まるで私たち二人だけがぽつりと孤立してしまったような状態だ。

「ラウル……」

心配そうに私のことを見詰めてくるエーリオ。先程の血色の良い生き生きとした表情から一転、顔色が悪く見ているこちらが心配になってくる。そんなエーリオを安心させるよう、努めて笑顔を向ける。するとそこに、1人の妾后が私たちに声を掛けてきた。

「あら、エーリオ殿。お顔の色があまりよろしくありませんわね」

無視されていた訳ではないのか?と声を掛けられたことに私の懸念は杞憂であったかと安心した瞬間。矢継ぎ早に他の妾后方が声を掛けてこられた。

「まあ、本当。お顔が真っ白ですわ」

「どこか具合が悪いのではなくて?」

続々とエーリオに対し心配の声を掛けられる妾后。やはり先程の奇妙な感覚は私の勘違いであったのだと妾后方の優しさに感謝していると、次の瞬間耳を疑うような言葉が発せられてきた。

「連夜陛下のお相手をしていれば、仕方ありませんわ」

「まあ、確かにそうですわね」

「そんな小さなお体で、陛下を受け入れるのは苦痛ではなくて?」

―――――彼女たちの言葉に、私は声を失った。






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あきゅろす。
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