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幻想
22




「良かった…。ラウルに分かってもらえて」

ニコリ微笑むエーリオがとても幸せそうで、不思議なことにこちらまで嬉しく思えてくる。この前のように塞ぎ込んでいる姿より断然今の方が良いに決まっている。
………ん?以前と比べて元気になっているということは、懸念事項が解決した、ということになるだろう。エーリオの場合はその懸念事項は恋煩いだった訳で。その恋煩いが解消したということは、つまりそれは……。

「陛下に気持ちを伝えたのか?」

「ううん、そんな!恐れ多くてとても……」

恋煩いの解消=エーリオの想いの成就と考えていた私にとって、不可解な状況だった。別にエーリオはヨルダン様に想いを告げ、受け入れられた訳ではないと言う。しかしそれ以外にエーリオの恋煩いが治ることなどあるのだろうか……?色恋沙汰に機微な訳ではない私にとって想像難い。
でもエーリオの言うことも一理あるだろう。一国の王に同性たる自分が恋慕を抱いているなど、そう簡単に口にできることではないだろう。もしかしたら不興を買ってしまうことになりかねない。
だがそれなら何故……。

「でもこの前、僕が塞ぎ込んで部屋に籠りきりになっているのを誰かから聞いたらしい陛下が、僕を心配してわざわざ会いに来てくれたんだ」

心底嬉しそうにその時のヨルダン様の様子を語るエーリオに漸く合点がいった。自分を心配してヨルダン様が尋ねてきて下さったことに、エーリオは感極まっている訳だ。確かにヨルダン様がわざわざ自分のために足を運んで下さるとなれば、誰しも光栄なことと喜ばずにはいられないだろう。エーリオの場合、その出来事で恋煩いも一瞬で吹き飛んだ訳か。

「良かったな」

「うん。本当、陛下って凄く優しいんだ。後宮入りして気持ちが不安定になっているんだろうって、落ち着くまで暫くは会いに来てくれるって!」

ヨルダン様はエーリオの後宮入りに責任を感じているのだろうか?それともエーリオの言う通り、純粋な優しさなのか……?
脳裏に浮かぶは、私に対する冷ややかな態度だけで、とてもヨルダン様がこのような処置を取られるとは考えられなかった。いや、これはただ目を背けているだけかもしれない。――――ヨルダン様はやはり、私にだけ冷たいのだ。
エーリオには優しく接せられる。確かにエーリオはまだ若く、容姿も性格も私と比べ可愛らしく庇護欲を駆り立てられる。またその家柄は私のものから比べると格段に高い。ヨルダン様が大事な扱いを取られるのも当然のことだろう。しかし何故私には、あそこまで冷たくされるのだろう。

一度でも私が後宮入りしてから、陛下が会いにいらしてくれたことがあっただろうか……?答えは否だ。一度だってありはしない。数度お声を掛けられただけで、最初からいなかったように私の存在を無視されている。何がヨルダン様の気に障ったのだろうか……。

「実は今日も会いに来てくれるんだ!本当、楽しみ……!」

ヨルダン様を思い、満面の笑みを浮かべるエーリオの顔が、今の私には直視できなかった。







それからというもの、1人で考えることが多くなった気がする。
ラビィはそんな私を心配そうな眼差しで見詰めてきたが、何か声を掛けてくることはなかった。私もまたラビィに何かを言うことは無かった。私の持っている疑問は、ラビィにとって聞かれても困るものであり、決して私はラビィを困らせたい訳ではないので自分の胸の内にしまっておくしかなかった。

ヨルダン様のことを考えるといつも、私を見送ってくれた父の姿が思い浮かぶ。貴族として、王を支えよと言っていた父上。王の隷属として、絶対服従の姿勢で従うのが代々王に仕えてきた一族の誇りと語っていた。
しかし今、その王から私は不興を買っている。
それは如いてはトッティーニ家にも至る。私は自分が情けなく、父上に、更には代々の先祖に対して、決して顔向けすることができなかった。






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あきゅろす。
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