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幻想
21





「そんなの、勿論決まってる!ここで一番格好良い人……陛下!」

「!!!?!!??」

頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が私を襲った。

「陛下、なのか……?」

「そう、ヨルダン様……。あの凛々しい御尊顔に、威厳の満ちた風貌。厳しさの中にある、とても優しい一面……。その全てが僕にはもう堪らない」

「でも待ってくれ、エーリオ。君は男だ。そして勿論陛下も男性だぞ……?」

エーリオの発言に頭がこんがらがってくる。
てっきりエーリオの想い人は後宮で働く女性とばかり思っていた。それがヨルダン様、だと?いくらエーリオがまだ成人になりたてで華奢で中性的な容姿、肉体だからといって男であることには変わらない。ヨルダン様に至っては言うまでもなく男性である。男が同じ男を好きになる……?それは自然界の掟から反する誤った行いではないのだろうか?そんな馬鹿なことが、起こり得るのか……?

「そんなの分かってるよ。でも、もうこの気持ちは止められないんだ」

「しかし、男同士なんだぞ……?」

「うん、そうだよ。僕も男だけど、同じ男の陛下の厚い胸に抱かれたいと思ってる。あの低い声で甘い言葉を囁いて欲しいと思ってる」

エーリオの願いに、急激な眩暈に襲われた。
確かに陛下は同性から見ても魅力的な人物だ。でもそれは羨望であり、憧れの対象というだけだ。そこに異性間のような恋愛感情など生じる筈がない。

「ラウルには分かってほしいんだ……。ここでできた唯一の友だちだから……」

そんなエーリオの言葉に、私は再び頭に衝撃を受けた。
エーリオは友として、私にこのことを告白してくれたのだ。
道理に反した想いを他人に告げることは、どれほどの決意や勇気がいることだっただろうか。
多くの葛藤を経て、エーリオは私に告げてくれたのだ。
その勇気を、決断を私は無碍にして良いのだろうか?

否定をするのは簡単だ。ただそれを受け入れなければ良い。
そんなことは有り得ない。気の迷いだと一蹴してしまえば良い。
目の前にある事象を否定し、偽であると認証すれば良い。
しかしそれは逃げなのではないのか?
ただ目の前の現実から目を反らそうとしているだけではないのだろうか?

例えエーリオの想いが理から外れていようと、私は友として受け入れてやるべきではないのだろうか?友の気持ちを踏み躙るのは、私が今まで歩んできた騎士道に反する行いだ。
仲間を知り、仲間を思い、仲間を助ける。
それは友を知り、友を思い、友を助けることにも通ずる筈だ。
私は、エーリオの想いを受け入れてやるべきなのだ。





「エーリオ……。すまなかった。私が悪かった。エーリオの想いはよく分かった」

男であっても、同じ男を愛してしまうことがある。
そういうこともあるのだ。今まで私が知らなかっただけで世の中には、そういったことがたくさんあるのかもしれない。
だから、エーリオがヨルダン様のことを愛してしまうのも別に不思議なことではないのだ。増してヨルダン様は同性である私から見ても魅力的な男性なのだから。

そう自分に言い聞かせ、私はエーリオの想いを受け入れた。
この出来事がきっかけで私の人生観――同性愛についての認識が大きく変わることとなった。




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あきゅろす。
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