[携帯モード] [URL送信]

幻想
18






「お二人とも仲がよろしくて、羨ましいですわ」

週に一度は行われるお茶会にも必ず参加するようになった。というのも、エーリオが他の妾后の方とも仲良くなりたいと言ってきたからだ。それならばお茶会に参加してみたら良いという私の勧めに、エーリオは付いてきてほしいと言ってきた。その頃にはもう私の中でエーリオに対する兄弟愛のようなものが芽生えてきており、エーリオの可愛いお願いをふいにすることなどできなかった。
お茶会に参加するようになっても、内気なエーリオは私の側から離れられず、いつも私の横にいた。これじゃあ折角来た意味がないと言っても、エーリオは頑なに私の側を離れることはなかった。そんな恥ずかしがり屋のエーリオを見て、他の妾后方は微笑ましいといつも笑っていられた。

「まるで本当の兄弟のようですわね」

「私も、突然弟ができたようで嬉しく思っております」

私たちの周りはいつも和やかな雰囲気が広がっていて、そこには後宮での妾后同士の駆け引きめいたものなど何もなかった。とても居心地の良い空間で、癒されることが多かった。

「失礼します。皆様、これより陛下が後宮へ参られます。中央庭園へお集まり下さい」

そこにアルベルト殿がヨルダン様の来訪を告げられた。
こうなれば自然にお茶会はお開きになる。皆一様に自室へ飛び返り、ヨルダン様をお迎えする支度を行う。
その様を見るといつも女性は大変なのだなと思い知らされる。
エーリオが来てからこの光景は初めてで、何が起こったのか分からずに、目が点になってただただ茫然としていた。私も最初に体験した時はそうだったなと思いながら今はもう慣れたもので、この光景を見ても何も驚かなくなっていた。

「エーリオ、私たちは先に中央庭園に向かおうか」

「え、あ、うん、ラウル。あ、でもちょっと待って!」

中央庭園に向かうべく、身体を反転させた私にエーリオが後ろから声を掛ける。その声に反応し、後ろを振り返るとエーリオがもじもじと動いていた。一体どうしたのだと尋ねてみると、恥ずかしそうに口を開く。

「おかしいとこ、ないよね?」

最初、エーリオが言っている意味が分からず考え込んでしまった。しかし直ぐに身の周りのことを聞いているのだと分かり、合点がついた。ヨルダン様の前に立つのに、失礼はないかと聞いているのだ。そんなことを恥ずかし気に聞くなんて、やはりまだまだ幼い証拠だなと微笑ましく感じた。
やはり成人した頃の男児は思春期真っ盛りとあって、こうしたちょっとしたことでも恥ずかしいものなのだなと少し昔の自分を思い出して笑ってしまった。

その後、身の周りを気にするエーリオの服装を整えてやって、中央庭園へ向かった。中央庭園には早くも数名の妾后が待っており、私たちもその中に並んだ。基本的には整列は陛下の御寵愛の深さと後宮入りした順番で決められており、エーリオと私は互いに迎え合って最後尾に並ぶこととなっている。
ヨルダン様がいらっしゃるまで、目の前にいるエーリオを見ていると、全く落ち着きが無く常にそわそわしている。やはり緊張しているのだろうかと少し心配になってくる。エーリオが何か粗相をしなければ良いのだが……。

少しして他の妾后たちも集まり、ヨルダン様をお迎えする整列が完了し暫くすると、アルベルト殿を携えたヨルダン様が姿を現した。と言っても、妾后たちはヨルダン様が椅子に座られるまで頭を上げてはならず、しっかりとその御姿を拝見することはできないのだが。

「エーリオか」

私の前。正確には私の前のエーリオの前でヨルダン様は足を止められた。
ヨルダン様にお声を掛けられて、緊張がこの上ない所までいっているのがエーリオの上擦った声からもよく分かった。私事ではないが、そわそわして落ち着かなくなる。エーリオは大丈夫だろうか。ヨルダン様から厳しいお言葉を掛けられたりしないだろうか―――。
しかしそんな私の心配は余所に、ヨルダン様は始終穏やかな様子でエーリオに優しいお言葉を掛けられていた。






[前へ][次へ]

18/67ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!