姫と執事の話
2
部屋に入った直後に裾を掴んでいた手を離され、布団入るようにと言われた。
「俺はまだ仕事が残っていますから、“一緒に寝る”ことは出来ませんからね。――それが嫌なら、ご自分の部屋に戻られるか、アリアの部屋に行ってください」
きちんと送って行きますので、と言われると、一緒がいい、という言葉は、腹の中に押し込めるしかなかった。
「ならば手……」
「手?」
「わたしが眠りにつくまででいいから、手を握っていてくれ」
「……わかりました」
そうして握ってくれた手は、心なしか、ひんやりとしているような気がした。
「これで良いですか?」
「うむ。ほんとうにありがとうな、サンジェス」
「いえ」
サンジェスの声は、なによりも安心ができて好きだ。
だから、すぐにでも眠れそうな気がする。
けれど、普段こんな風に触れ合うことはあまり出来なくて、このまま眠ってしまうのがなんだかもったいない気もする。
そんなことを思いながら、リーシャは目を閉じた。
「サンジェス。お前、カゼでも、ひいているのか?」
「いえ。ひいていませんが、どうしてですか?」
「いや。なんだかすごく、汗をかいているような気が、したものだからな」
「――先ほどまで書類仕事でペンを握っていたせいでしょう」
「そう、か……」
それ以上は、まぶたの重さに負けて、声は出てこなかった。
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