姫と執事の話
6
「アリア……。もう昼食の時間か……」
ベッドで横になっていたリーシャは、起き上がると額(ひたい)を押さえた。
あまり食べていないせいで、貧血気味なのだろうか。
すぐに退室するつもりだったのだが、駆け寄ってその体を支えた。
「食べていないから、頭まで血がいっていないんじゃないですか」
声をかけると、触れている部分が小さく震える。
「お食事、全然とられていないらしいですね」
「…………」
「どうして食べないんですか?」
「――せ」
「……姫?」
「……はなせ。……わたしから、離れろと言っているんだ!」
突然のリーシャの叫びに、すぐに手を離す。
「そんな心配だったらいらない。アリアや、他の者たちで充分だ」
リーシャは声を荒げたが、それは小さく、肩で息をしていた。
「お前の顔を見れば、料理に失敗したことくらい、何となくでもわかる。でもお前は、食べてくれた。だから……」
ふいに、今にも大声で泣きだしてしまいそうな顔を向けられる。
「勘違い、していたのだぞ。わたしを想ってくれていると……!」
「……姫?」
「でも、アリアには言っていたらしいな。あんなものは口にしたくない、と」
「それは――!」
「わたしは、食べてもらえなかっただけで、その者な罰をあたえるような、そんな人間に見られていたのか?」
「そんなことはかけらも思っていません」
「だったらなぜ……!?」
「……」
「想ってくれていると、そう思っていたから……お前が世界一だって、言ったんだ……。それなのにお前は、お前以外に言えと言った」
「…………」
「もう、どうしたらいいのかわからない……。一緒にいたいのに、一緒にいたら苦しくなる」
とうとうリーシャは両手で顔を覆(おお)って泣きだしてしまった。
それなのに、サンジェスは少しも動揺した様子を見せない。
むしろ、うっすらと笑みを浮かべてさえいた。
「ええ……。想っていますよ。貴女を」
「……いみが、わからない」
涙声で訊かれ、苦笑を浮かべる。
「俺が貴女を想っていると、いつ頃からそう感じていたのですか?」
「……」
「お願いですから、教えてください」
「……思い出せないくらい、ずっと前から……」
「そうですか。そんなに前から……」
フッと息を吐くと、ベッドに腰掛け、泣き崩れる小さな体を抱き締めた。
「!? 離せ!! なにも想っていないなら思わせ振りなことをするな!」
「じゃあ……想っているから問題ないですね」
腕の中で、涙を拭うことなく見上げられる。
それにやわらかく笑ってかえすと、濡れた頬に手をそえた。
「はじめからばれていたのに、必死に隠していたなんて……なんとも滑稽(こっけい)ですね」
「?」
「一度しか言うつもりはないので、ちゃんと聞いていて下さい」
小さく頷くのを手のひらに感じて、落ち着いていたはずの心臓が、かすかに騒ぎだす。
それを誤魔化すように、コホン、と咳払いをした。
「リーシャ。……愛しています。貴女だけを」
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