[携帯モード] [URL送信]

姫と執事の話
5
 それからしばらくして、扉がノックされ、メイドの一人が顔をのぞかせた。

 まだ真新しいエプロンドレスを見ると、新入りらしい。


「あ、あの……昼食が出来たので呼びに来ました」


 わかった、とサンジェスが立ち上がる。

 と、それまでおとなしく本を読んでいたアリアが口を開く。


「ねぇ。姫の分は出来てるの?」


「あ、はい。それもお知らせに行こうかと……」


 そう、とほんの少し考え込んだ様子を見せると、


「サンジェス。悪いんだけど、姫のお部屋まで届けてもらえる?」


 どういうことかと眉をひそめる。

 すると、ちょいちょい、と手招きされ、仕方なく近付く。


「姫。皆にこれ以上心配かけたくない、って三食作らせてるのよ。結局ムリで、わたしが食べてるんだけど。……でも食べる意志はみせてくださってるから、やめるにやめられなくてね」

「だからってなぜ俺が……」

「食べ過ぎてお腹の調子が悪くなっちゃったのよ。でも姫にそんなの見せられないし」


 だからお願い! とヒソヒソ声で頼み込まれたが、これを理由にリーシャの部屋へ行かせよう、という魂胆(こんたん)は見え見えだった。

 断ろうと口を開いた瞬間。

 小さなうめき声をあげて、アリアがソファに倒れこんだ。


「大丈夫ですかっ!?」


 とメイドが駆け寄ると、苦し気に笑みを浮かべる。


「ええ……。でも、昼食はむりみたい……。姫のお部屋へはサンジェスが届けてくれるから、自分の部屋に戻るわ……」

「私も一緒に行きます!」

「ありがとう……たすかるわ……」


 それじゃあお願い、とメイドに支えられながらアリアは出て行った。

 しらじらしくも強引なそれに、返す言葉み忘れてしまい、しばらくしてから、その場で足をダン、と鳴らすように振り下ろす。

 しかし、ただジンと痺(しび)れただけだった。



 どうにかしようと考えたが、あの短時間では何か思い付くわけもなく、結局リーシャの部屋に昼食を届けることになった。

 本来ならば、自分たちよりも先に食べているはずなのだが、ここ二、三日は体調を理由に時間を遅らせていたらしい。

 だから、リーシャの分と使用人たちの分とを一緒に知らせに来たのだ。

 とはいえ、ここ最近まともに顔さえ合わせていないというのに……。


(いや、ただこの食事を持ってきただけだ。会話する必要なんか……ない)


 そう思ったところでリーシャの部屋に着き、一度かるく深呼吸してから扉をノックした。



 

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!