姫と執事の話
2
その晩、ジルカはリーシャの部屋に。
レイはアリアの部屋にそれぞれ泊まることとなった。
帰る前の晩くらいはおしゃべりさせろ、というジルカの言葉にレイが押し負けたらしい。
「姫たち、明日は二人そろって寝不足ね」
「申し訳ありません……」
「いいのよ。ところで“あなた”がわたしの部屋に泊まりにきたい、なんて……ただ“おしゃべりしたい”とは違うのよね」
「ええ。……たいしたことではないと思うのですが……」
レイは言葉をいったんきると、お茶を一口、ゆっくりと飲み込んだ。
「リーシャ姫様は何か悩んでおられるようです」
アリアは、そうね、とつぶやく。
――しばらく部屋で食事をとりたい。
目がさめた直後のリーシャの言葉を思い出しながら、自分のカップの持ち手をなぞる。
部屋で食事がしたい、ということは、なるべく部屋の外へは出たくないということ。
つまりは……
(一人になりたいってことよね)
「あの……アリア?」
レイに声をかけられ、ハッと我にかえる。
「ああ、ごめん。それで?」
これは私の想像ですが……、と前置きしたうえでレイは続ける。
「今回の件。どうやら姫ぎみが飲ませた薬。リーシャ姫様の“心”に反応をして、お体を縮めてしまったようなのです」
「え……?」
「何度調べても薬の成分ではなく、リーシャ姫様の“心”が反応を示されたんです」
「“心”」
「ええ。ですが姫様ご自身に自覚のない場合も考えられましたし、薬自体に問題は無かったのであの場ではあのように言いましたが、やはり気になって……」
レイは深刻そうな顔でまたお茶を飲む。
「精密に調べたわけではないので断言は出来ませんが、魔法薬に影響するまでの強い“心”ということは、リーシャ姫様はそれに強く囚(とら)われている可能性があります」
「とらわれて……」
――子猫になってやりたいことがあったんだ。でもそれはいつでもいいわけじゃない。今でないと……。
(やりたいこと、か)
アリアはかるく息をつき、お茶の残りをぐいと飲み干す。
「教えてくれてありがう、レイ。でもここでぐだぐたと悩んでいても仕方ないし、今日はたっぷりと寝て、明日にでも訊いてみるこてにするわ」
「分かりました。もし私にも何か出来ることがありましたら教えて下さい」
それでは、と部屋を出て行こうとするレイを、手首を掴んで引き止める。
「どこに行くつもり?」
「いえ、要件は済んだので客室に戻ろうかと」
「ジルカ姫さまには、わたしの部屋に泊まる、って言ったわよね」
「そうですが……しかし――」
「言ったわよね」
「……はい」
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