藤(庭) aphrodisiac(アカ平・裏) ※無理矢理 ※愛はある、はず ※一応、媚薬モノ 自分の身体を這う白い手。 酒の混じった熱い吐息。 闇に浮かぶ白い髪。 酒で霞が掛かった脳内では、現状把握もままならない。 「ひらやま」 そう呼ぶ声がやけに切羽詰っていて昔の彼を彷彿とさせる。 自分は、誰に抱かれているのか。 薄暗い和室の布団は、昔にくらべて随分とふんわり自分を受け止めてくれている。 それでも、性急に事を進めようとする彼が、若い彼のようで困惑していく。 自分は、ボロアパートにでもいるのだろうか。 記憶と意識が混濁して、うまく息が吸えないままゆっくりと、そのまま溺れていく。 混濁して、記憶の境が、歪む・・・ 「っ・・・!」 声にならない痛みで目が覚めた。痛みの原因は下半身のようだ。少しばかり上体を起こしてみれば、なんてことはないいつもどおりの光景がひろがっているだけだ。痛みに慣れることはなかったが、この光景には慣れてしまった。覆いかぶさるようにしている白い獣と眼が合う。 「アカギっ!!てめぇ、ふざけんなあっ、ひっ・・・!」 抗議の声が悲鳴に変わる。碌に慣らしもせず突っ込まれ切れたのだろうか、それとも彼がまた喧嘩でもしてきたのだろうか、どこか血の匂いが薄っすらとした。冷静に考えれば自分の尻と彼の傷だらけの姿で両方だということがわかっただろうが、生憎とそんな思考は吹っ飛んでいた。 「いっ・・・うああっ!!」 あぁ、安くてぼろいアパートには筒抜けだろう。煎餅布団はずれてしまって、肩がすすけた畳にすれて痛い。だが、それよりも、突っ込まれているそれを何とかして欲しい。せめて、もう少し快楽を追わせて欲しい。これじゃ、まるで、喰われてるだけだ。獰猛で孤高で高潔な獣に、中から。 生理的な涙で視界がぐちゃぐちゃだが、彼の眼をじっと睨みつける。眼が、合う。 「あ・・・カギ・・・」 こんなことがないわけじゃなかった。 例えば喧嘩を仕掛けられた日。麻雀で煮え切らないような戦いをしてきた日。中途半端に燻る熱を、吐き出すようにぶつけられ、揺さぶられる。こっちの都合はお構いなし。あぁ、オレは単に欲望と熱の捌け口なんだ、そう思って泣きながら、抱かれる日もある。 けれど、今日はそうじゃない、そう何と言うか、彼は耐えていた。 切なそうに熱っぽく、眉を寄せて。 それこそ、情事の絶頂にしかお目にかかれないような。もっとも、彼がその表情をしているときは自分自身に何一つ余裕がないわけで、ろくに彼の表情は覚えていないのだけれど。そう、自分の記憶力をもってしても、彼のこんな表情は、見たことがないといってもいい。 そんな表情に、ずくりとどこか疼いた。それが、まさか彼の表情に欲情したなんて、認めるわけにもいかない平山は理由を聞かねばならないと、楽な体勢を探すべく必死に身体をずらした。それが、彼には逃げるように写ったのだろう。寝巻き代わり着ていたシャツの上から腰を掴んで引き寄せる。深く、突き刺さって、上擦った声が出た。 「・・・なんで、逃げる。ねぇ、やっぱり無理矢理のが、いいの?」 「んな、わけっ・・・!」 ぐちゅり、と聞こえた。音がした場所は紛れも無く接合された場所。かぁっと赤くなる顔に、満足そうにアカギは頷いた。どこか、苦しそうな顔のまま。 「ほら、いいんだろ」 「あ、あぁっ、ちがっ、ちがうっ・・・!」 反論しても無意味な程、掻き乱されていけば、辛かった身体も快楽を得ていく。徐々に追い詰められて、腰が跳ねた。 注ぎ込まれていく精液に、どこかホッとした。これで、終わりだと。荒い息を吐き出したところで、視界がまわって畳が、見える。なんでと思う間もなく、身体に衝撃が走った。 「ひあぁっつ、んああっ・・・!」 そのまま勢い良く後ろから突かれ始める。一度達した身体には強すぎる衝撃。肉と肉がぶつかる音が、きっと隣人にすら、聞こえてるだろう。平山の高く啼く声も、きっと。それでも容赦無く、打ち付けられる。今日は一段と扱いがぞんざいだ、本当にただの捌け口なのだろう。 ぼろぼろと零れる涙が、たまらなく、苦しい。 早く逃れたい、それでも繋がっていたい。苦しい。 「ゆき、おっ・・・」 それでも。 切羽詰ったアカギの声だけが、唯一の救いだった。 ぽろりと涙が零れて、ようやく意識が浮上する。今のは、夢だ、それも随分昔の。 「気放って気絶したまま、何、泣いてんだ」 ぺろりと涙を舐め取られて、ようやく彼の顔に意識がいった。若くない、中年、初老の顔。優しげな雰囲気さえ纏った、彼ー赤木しげるの歳を取った姿。そうだ、優しく、甘く、けれども、激しく、散々絡み合った後じゃないか。 「お前が・・・切羽詰った、顔してたから」 昔の夢を見たじゃないか。 「・・・?」 「ほら、お前が夜中に押しかけてきて」 「おう、今みたいに、だな」 「・・・そう、今みたいに、だ」 何一つあれから成長していないのかと、平山は軽く頭痛がした。頭痛よりも鈍痛が酷いが、それは暖かい布団に身を委ねることで対処したことにしよう。 「というか、そういうこと、わりとあるだろ」 「あぁ、残念だがわりとある」 けど、あのときは、そうじゃなかった。 散々、抱きつぶした後、唐突にアカギは倒れてしまった。真っ青な顔色に震える体。病気かと思ったが、先ほどの異常な熱に浮かされた顔と合わせて考えれば、簡単なことだ。 「薬、飲まされたこと、あったろ。酷い目に遭った」 「・・・ん?・・・あぁ!」 軽く手を打って、赤木は頷いた。 「賭けでふんだくったやつか」 「・・・んなもんふんだくるなよ・・・」 「いや、あれは参った。最初寒気がして気分が悪くなったと思ったら、急にヤリたくて堪らなくなって・・・」 赤木はそっと囁くように、平山に言う。寝屋にふさわしい思いきり甘い声。 「平山の顔が、真っ先に浮かんだんだ」 かあぁと赤くなる彼に、またじんわりと熱が篭っていくのを赤木は感じた。その熱は若い時とは違う反応で、心も高揚していく。 「というわけで」 赤木はそっと平山の身体に手を這わせる。まだ敏感なのか、ひくりと動くのを見て、さらに愛撫をし始める。あのときとは違う、丁寧に。 「はっ・・・まだ・・・するのかぁ」 「おう、これ」 小さな小瓶を平山に見せれば、彼の顔色が若干変わっていく。それは、危ない薬とは異なってはいたが、ある意味あれ以上に性質の悪い媚薬であった。先ほどの切羽詰った顔はこれのせいかと、今更ながら納得した。 「今度は平山も使おうぜ?大丈夫大丈夫!」 銀さんがくれたから、安全なはず!という赤木の笑顔に、平山はそりゃあ余計危ないだろ、と全力で否定するのだったが、とにもかくにも。 「腰、いてぇ・・・平井の野郎・・・」 二人で仲良く布団で過ごしている間に、フタバマンションでも同じことが起きているかどうか。 それは牙と翼のみが知っている。 終わり [*前へ][次へ#] |