SoulCalibur's Novel 追憶の讃美歌U ジークの脳裏に最後に交わした言葉がよぎる。 「ジーク、お前に話しておきたいことがある」 「なぁに、父上?」 「私は…この国を守るために騎士として戦わなくてはならなくなったんだ。だから、お前と母さんとはしばらくこの家に居られなくなる」 「父上…父上とはもう…会えなくなるの?」 「戦いが終わったら、必ずお前の家に帰るよ。そして、またお前に私の剣を教えてやる。いいな?」 「………うん…」 こぼれてくる涙を必死に拭いながら、頷く。 「僕…僕もいつか父上みたいな、立派な騎士になれる…?」 「あぁ、なれるさ。それまで、母さんをよろしく頼むな」 父の大きく温かい手が、ジークの頭の上に乗せられる。淡い金の髪を撫でながら、言った。 「強くなるのだ、ジークフリート――」 …いつしか讃美歌は終わっていた。鳥が空へと羽ばたいていく音でジークは、はっとする。そして気付いた。今、教会の前に立っていることに。 扉は閉ざされてはいるが、まるでジークがその手で自ら開けてくれるのを待っているようにも感じた。 一瞬、開けようかどうか迷ったが、彼はその手で教会の扉をゆっくりと押し開けた。 「――………」 まず目に映ったのは、ステンドグラス。天使や太陽などの絵が描かれている。さらに青や緑の硝子が太陽の光を受けて、床を照らしていた。赤、青、黄など様々な色が交ざり合い、グラデーションを発している。神々しい雰囲気も伴って初めて美しいと感じた。 真ん中の通路は奥へと貫いており、左右には幾重にも並ぶ参拝者の長椅子が、右側の奥には教壇が、左側には神を崇める歌を歌うためのパイプオルガンがあった。 しばらく見とれていると――。 「おや?」 聞き慣れない声がした。ジークが慌てて振り向くと、 「礼拝しに来たのかい?残念だが、もう終わってしまったよ」 優しい笑みを浮かべた、初老の男が立っていた。何故か、かつての父の面影が重なる。 「あ…えっと……」 「すまない。私は、この教会で神父を務める者だ。君は、名前はなんというんだね?」 「俺は、ジークフリート・シュタウフェン…」 本名を告げてみても、彼に関わりのある者はほとんど「ジーク」と呼んでいる。少し複雑だった。 「ジークフリート君…か。此処へ来るのは初めてかな?」 「あぁ。森を歩いてたら、讃美歌が流れてきて、そしたらこの教会にたどり着いて……」 「そうだったのか…」 そして、父と最後に過ごした時を思い出した。大きな背が遠ざかっていくその時を。 「もし、神がいるなら――」 「?」 「もし、神がいるなら、俺の父上を殺した奴が誰なのか聞いてやる。そして、俺はソウルエッジを手に入れて、そいつを殺す」 「復讐は負の連鎖を生むだけだ。それに、君の父親も子であるジークフリート君にそんな事は望んでいないはずだろう。君の父親を殺害した誰かは分からないが、相手を殺したところで今度は君の命が狙われかねない」 「それでも…いい…。そうでもしなければ…俺は…――」 言葉が途切れる。その先は、自分の口では言えなかった。 「悔しい、その上に悲しいのだろう。君の気持ちは理解しているつもりだ。もし、君が父親の事を思うなら――、敵を討つということはしないで、もっと別の…大切な何かをするべきじゃないかな」 〜前へ〜〜次へ〜 [戻る] |