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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の9

(私にとってソラは……)

 記憶を探り、今までの出来事を思い出していく。しかし、明確な“何か”を思い出すことはできない。

 もしこの場にカディオがいたとしたら、あのことを指摘するだろう。そう、アカデミーの一件だ。

 イリアは、ソラがラタトクスということは知っている。そして、例の発作についても知っていた。それなら相手を心配して、動いていいものだ。何より二人は、幼馴染関係。しかし、イリアは――

 しかしイリアは、動かなかった。いや、動けなかったのだ。ソラの身体が悪いというのは認識していたが、あれほどまで酷いということを知らなかった。よって、行動に移せなかった。

 だが、何処かに本心が隠されていた。

 ラタトクスだから。

 イリアは、ソラを恐れていた。

 しかし、それは普通。本能に近い。

 だから――

(そうよ、ソラに連絡しないと)

 ふとその時、別のことを思い出す。それは、卒業報告であった。今まで世話になってきた手前、黙っているわけにもいかない。そして何より、自分が決めた将来を知ってもらいたかった。

(電話、出るかしら)

 ユアン同様、忙しい身分。電話をして出るとは限らない。だが、確実な方法がひとつだけ。それは、メールを送ることだ。いつ読まれるかわからないが、電話をするより簡単に済ますことができる。

 それに、長々と愚痴を書き込めるのが便利であった。イリアの場合、ソラは愚痴を聞いてもらう相手。だが、相手にしてみたらいい迷惑。しかしそれができるのは、仲がいい証拠でもあった。

(卒業式、どうしようかな)

 卒業式は、大勢から祝ってほしいもの。しかし、ソラと父親の関係は悪い。いや、最悪というべき状況にあった。偶然であれ二人が出会ったら、険悪なムードになってしまう。しかし、祝いに来てほしいと思うのが本音でもあった。だが、それを行動に表すことはできない。

 イリアにとって、それが正直な想い。そして、祝い事に沢山の人が集まるのは当たり前だと思っていた。だが、それを素直に望むことはできない。そうなってしまった、両者の関係。イリアはこの状況を、ただ嘆くしかない。そして、ラタトクスを取り巻く環境も――

(お父さんが、ラドック博士みたいな性格だったら良かったのに。そうすれば、何も言われない)

 憧れの人物のことを思いつつ、自身の父親の欠点を愚痴る。だがそれは思った以上に多く、かなりの数が上げられた。それだけ父親に不満があり、ユアンが理想の存在と証明してくれた。

 その時、良い考えが思い付く。それは式が終わった後に、個人的にソラに会えばいいというものであった。何とも簡単な方法。しかし悩みが多いイリアには、その方法を思い付くにも苦労をした。

 そうと決まれば、メールを送らないといけない。イリアは椅子に腰掛けると、パソコンを立ち上がる。そしてリズミカルにキーボードを叩くと、日頃の愚痴と卒業式のことについて打ちはじめた。


 何とか卒論は合格をした。

 そして、卒業が決定した。

 その卒業式の日程と時間は――

 当日、二人で会いたい。

 できるものなら、話がしたい。


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あきゅろす。
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