第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の10
「確かに、そうですね。ところで、その量は――」
「タツキに料理を作ると約束して、その買出しだよ」
二人の関係を知っているソラは、苦笑いしかもれない。クリスは、完璧に尻に敷かれている。可哀想なことであったが、それが現実。よってソラは、クリスの味方をすることにした。
「手伝います」
「いいのか?」
「お世話に、なっていますので」
「嬉しいな」
実のところ、一人では大変だと思っていた。そう思っていた時に現れたソラは、まさに天の救い。もし周囲に誰もいなければ、抱き締めていただろう。それほど、ソラの言葉は大きい。
それにクリスは、ソラの料理の腕前を知っていた。過去に数回、ソラの料理を食べた経験がある。その時の感想は一言。美味しい――この感想しか、言うことはできない。それほど美味しく、感激してしまった。これで女性であったら、多くの男から告白されていたに違いない。
現にソラの性別が女性であったら、クリスは間違いなく告白している。それくらいソラは、家庭的であった。
「何を作るのですか?」
「肉料理」
「タツキらしいですね」
「男らしい食事だ」
ソラはタツキの性格を熟知しているので、同意するかのように頷いていた。その動きに、迷いはない。二人は、同胞同士。それともタツキに関して相談を行える、無二の親友関係か。
タツキに指摘は不要。下手をすれば、手が飛んでくる。しかし、ソラは違う。全てを受け入れ、賛同してくれる。
「それなら、野菜が必要です」
「あいつは、食うかな」
「食べさせないと、健康に悪いですよ。野菜は炒めてしまえば、量が減りますから。それを利用して、食べさせてしまいましょう。味付けを様々に変えれば、タツキは食べてくれますよ」
「そうだな」
料理を得意としている二人。瞬く間の内に、メニューが決まっていく。作る料理の決定後は、必要な材料を購入しないといけない。しかし途中で、籠が山盛りになってしまう。あれやこれやと決めていくうちに、食材まで多くなってしまった。流石に、全部は購入できない。
「少し、戻しましょうか」
「それがいい。あいつ、冷蔵庫の中で物を腐らすようだ。女とは思えない、生活スタイルだ」
「タツキらしいです」
その言葉に、驚く素振りを見せない。ソラはこのことを知っているので、反応を示す必要がなかった。冷蔵庫の中を掃除したことがあるのは、クリスだけではない。実は、ソラも行っていた。
相手が顔見知りの場合、容赦はしない。それも尋常ではない内容を注文し、時として肉体労働を行わせる。そのひとつが、建物の清掃。時間を見つけて自分で行えばいいが、タツキは行わない。要は「面倒だから」この言葉で、片付けてしまう。だからこそ、質が悪い。
それなら素直に否定の意見を述べていればいいのだが、タツキを敵に回すことはできない。何より、反撃が怖い。あの馬鹿力で殴られたら、命の心配をしなければいけない。下手したら、昇天してしまう。それは大げさな内容であったが、そう思わせるほどタツキは怖い。
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