第一章 異端の力 其の8 「で、何処へ行くんだ」 「墓参りだよ」 「墓参り? 何だ、期待していたのに」 「だから、面白くないと」 何気なく発せられた単語にカディオは首を傾げるも、その意味を理解する。ソラが墓参りをする相手、それは両親か友人だ。そのどちらだろう――しかし、カディオは訊ねることはしない。 この場合友人として訊ねる権利を有しているが、言葉として発していいものではない。いい加減な一面を有するカディオであったが、聞いていいことと悪いことは即座に判断できる。これも、ラタトクスという存在を理解している証拠だ。故に、これはカディオしかできない。 「それでも行くか?」 「まあ、ついていっていいのなら」 「オレは、構わないよ。お前なら……ね」 深い意味合いを含んでいる言葉であったが、カディオは無言で頷くしかできなかった。それと同時に、カディオは嬉しいという感情が込み上げてくる。包み隠さず明かしてくれるというのは、相手を信頼しているという証拠だ。無論、二人の関係は幼馴染以上に深かった。 「何か買っていくか?」 「花でいい」 「それを買ったら、行くぞ」 「テンションが高い。別に、お前が主役じゃないというのに……その前に、少し待っていてほしいな。風呂に入りたい」 「おう、車の中で待っている」 不摂生と取れる生活スタイルであったが、カディオはそのことを指摘することはしない。長く付き合っている友人関係というべきか、ソラの生活環境を理解していた。同性という理由も関係しているが、大半のことを理解してくれているカディオの方が正直付き合いやすい。 時折、無理難題を突き付けてくる。しかし、それは決して無謀なことを押し付けているのではない。付き合っている年月では、イリアの方が長い。しかし彼女は、物事を表面しか見ていない。 このような背景から、カディオのことを素直に受け入れた。もし相手がイリアであったら、真っ先に追い返していた。ソラにとって、カディオの方が幼馴染に等しい。現に、ソラはそのように思っていた。だが、現実は異なる。イリアが幼馴染であり、カディオは友人。 不幸に等しい内容であったが、ソラは今の状況に満足している。それはこのように、遊びに来てくる人物がいるからだ。時折、迷惑な訪問の仕方をするも訪れてくれるだけ有難い。 部屋の中に、ドアが閉まる音が響く。その音にカディオが出て行ったと判断すると、ソラは風呂に入る準備を進めた。 ◇◆◇◆◇◆ (終わるかしら) 深い溜息を何度もつくと、イリアはパソコンの画面から視線を外した。今、彼女がいる場所は国立図書館。数日後に迫った、卒論の調べ物をしていた。結局のところお金の都合がつかず、このように図書館で寂しく卒論を仕上げている。いや、卒論は既に仕上がっていた。 しかしプライドの影響で、図書館で調べ物をすることになってしまった。アカデミーの図書室とは異なり、此処では思った以上の資料の量に驚く。 これなら、納得がいく卒論に仕上がることであろう。これでアカデミーを卒業し、憧れのカイトスとしての生活……とは、素直に喜ぶことはできない。カイトスの道は、思っている以上に厳しい。それに、目標としている人物は遥か彼方に存在する。まさに、雲の上の人。 [前へ][次へ] [戻る] |