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第一章 異端の力
其の9

 しかしアカデミーの生徒の中で、イリアは彼の一番近くにいることができた。それは、アシスタントの件が示している。名指しで指名してくれるということは、それだけ信頼されている証拠だ。

(はっ! もしかして……)

 アシスタントを欲し、イリアにそれを頼んだ。この点を考えると、おかしな部分が出てくる。何故、態々アカデミーの生徒を選んだのか。研究所には、イリアより優秀なカイトスが沢山いる。

 それなのに、何故イリアを――

 そこに特別な何かがあると考えてしまうのは、乙女心。その為、頭の中に想像の花が咲く。

(そうよ、きっと……)

 イリアが楽しい想像をしている時、カバンに入れてあった携帯電話が震え出した。一体誰だろうと思いつつ、名前を確認する。その相手は、例の友人二人。“あのことを聞いた?”という催促メールであった。諦めていたと思っていた内容に、イリア渋い表情を作ってしまう。

 クラスメイト達の噂では、新しい彼氏を作ったという。それも、合コン会場で。それだというのに、また合コンを開きたいというのだから――正直、呆れてしまう。一体、何人の彼氏を作りたいというのか。それぞれ利用すべき人数を用意する気でいるのかわからないが、いつか痛い目に遭うだろう。異性も馬鹿ではない。友人達の考えなど、すぐに見抜く。

 そして事件が発生した場合、イリアのもとへ必ず流れてくる。可能性がないわけでもないが、あの者達の行動を見る限り有り得た。飛び火は避けたいところであったが、これは無理なことだ。

 手っ取り早く卒業し就職してしまう。同じ職場というのは現実的に有り得ないので、上手く避けて生活を送れば楽に生きていくことができるだろう。その前に、彼女達は卒業できるか危ない。現に、出席日数と単位が足りていない。そう考えると、卒論は無用の長物だ。

(ソラのことは断っても、大丈夫よね)

 卒論が忙しくて、聞く暇がない。尚且つ、相手は仕事が忙しい。言い訳に近い嘘であるが、断る理由はそれしか思いつかない。二人ながら簡単に見破ってしまう嘘であるが、卒業が掛かった生徒に頼みごとをする方が間違っている。それだけ卒業について、甘く見ているのだ。

 それに二人に関してのトラブルが発生した場合、周囲が何とかしてくれることが多い。このことで多少強気に出たとしても、何ら問題はない。寧ろこの場合は、強気に出た方がいいに決まっていた。そうでなければ、二人は学習しない。そして、更に被害者を生み出してしまう。

(うん、そうしよう。頑張れ、イリア)

 自分自身に気合を入れると、使用していたパソコンの電源を落とす。そして荷物をカバンの中に仕舞うと、アカデミーに向かうことにした。今日の講義は午後から。よって午前中は図書館で真面目に卒論を仕上げるという計画を立てていたイリアであったが、予想以上に早く終わってしまった。

 後は仕上げた卒論を教授に提出し、不備がないかチェックを受けるだけ。これで合格を貰えれば、晴れてユアンのアシスタントとして働くことができる。憧れの人物との二人っきりの時間。これを切欠に、親密の中になることができたら……妄想だけが膨らんでしまう。

 ふとその時、空腹を知らせる音が鳴る。その音にイリアは赤面すると、誰かが聞いていないかと周囲を見回す。静かな図書館の中。だが幸いなことに、誰もその音を聞いていなかった。

 逃げ去るように図書館から外に出ると、大通りへ飛び出す。その為、周囲に何があるか確認できなかった。黒い大きな物体が、イリアの目の前を通り過ぎる。そう、あわや車にひかれるところであった。

 悲鳴を上げ、後退する。その危険な行為に、周囲にいた人々から注意を受けることになり気分が滅入ってしまう。友人達からの頼みごともあったが、イリアは卒論が終わったことに気分が良かった。

 しかしこの件で、気分が悪くなってしまう。


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