「ハイハイ、オマチドウサマー。ランチセット三つ、上がりダヨー」

「早ぇな……」

　どうでもいいことを話しているうちに、注文したものが出来上がったようだ。カウンター越しにサイモンが寿司を差し出した。どうやら蟹を使っているらしい。とてもおいしそう。

「新鮮なカニ、使ってるヨー。オイシイヨー、安イヨー」

「あぁ。ありがとな、サイモン」

「んじゃ、食いますか」

「いただきます……」

　蟹の寿司を手に取り、一口で食べる。……おいしい。蟹の美味しさに自然と顔が綻ぶ。一つ、また一つと、自然と手が進む。

「おいしいべ？」

「はい……とてもおいしいです」

「オー！ソレハヨカッタヨー。喜んでクレテ、嬉しいネー」

「もっと食いてぇなら、遠慮なく言えよ。あんま高ぇのは無理だけど、このランチくらいならもう一つ頼んでも平気だぜ？」

「いや……これだけで大丈夫」

「そうか？」

「うん」

「本当に頼んでいいんだぜ？」

「大丈夫。これで十分だから」
「…………」

　疑いの眼差し。本当にこれだけでも大丈夫なんだけどなぁ……。
　そんなことを思っていると……

「サイモン！ランチ二つ追加な!!」

「……!?」

　平和島静雄がランチセットを二つ追加した。

「ちゃんと金、持ってきてるよな？」

「もちろんすよ」

「わかってると思うけどよ、雪華の分はお前が払うんだぞ？」

「大丈夫っすよ。自分で言った事っすし」

　……もしかして、私の分も追加したのか？田中トムのではなく？いらないって言ったのに……。

「雪華さ、朝飯食ってねぇだろ？」

　何故わかったし。

「そうだけど……。それが何か関係あるの？」

「それだけじゃ足りねぇだろ」

「そんなことない」

「んなことねぇだろ。さっきうまそうに食ってたじゃねぇか。俺的にはよ、お前は難しい顔してるより、笑ってた方が絶対可愛いと思うぜ？」

「……〜!!」

　……これって、褒められてるの？前にも似たような事言われた気がするけど……何がしたいのだろう。
　ポカンとしていると田中トムが落ち着かない様子で言った。

「静雄ってよ、恥ずかしげもなく言うよな」

「？ そんな恥ずかしい事、言いましたか？」

「いや……そこまで恥ずかしくはねぇけどよ……」

「……？」

　平和島静雄は不思議そうな顔をしている。
　……深い意味はない。絶対ない。あぁもう、田中トムが余計な事を言うからちょっと気になっちゃったじゃない。馬鹿みたい。

「ハイ、追加ノランチ二つ、毎度アリー」

「おっ、サンキュ。俺の奢りだからな。残すんじゃねぇぞ」

「勝手に注文してそれはないと思う。だけど……食べてあげてもいい」

「……じゃあ、食えよ？」

　平和島静雄はニカッとした笑顔でそう言った。

「……うん」

　サイモンが置いていった寿司に手を伸ばす。

　……それは卑怯じゃないか？その笑顔は爽やかすぎて、私には眩しかった。

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