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キミだけを見つめたくて


都心から郊外を繋ぐこの路線は夕方ともなると帰宅ラッシュになる。

余談ではあるが基本的に校内では挨拶を交わす程度の2人なので、在校生が見ると?マークだろう。

ましてや碧理に恋人が居るのは周知の事実なのだから。

なので恒司はある程度の距離を保ちつつ、付きつ離れずと言った感じの位置取りをしている。
幸い、ラッシュの割に空いている方だ。

「ねぇ…」

こちらを向かず窓の外を見たまま碧理は尋ねる。

「ん?」

恒司は首だけを捻り、碧理を見る。

「何で好きなの?」

唐突に聞かれた質問は予想外にも大きなことだった。

「…誰かと比べる必要が無いから…かな」

そう応えた恒司だが本当のところ、自分でもよくわかっていない。

自分でもたまに考えてはみるのだが、未だ納得のいく応えは出せずにいた。
しかしながら「他の誰か」という点だけははっきりしていた。
恒司にも仲の良い女友達は少なからず居る。
そう滅多にあることではないが、遊びに出かけたりすることもある。
だがその度に前の彼女と被ってしまう。

彼女はどうだった…
彼女と何を話した…
彼女だったらこうしてくれた…

行く先々で彼女の思い出が蘇る。

しかし、彼女-碧理-に限ってそれが起こらない。

惚れた弱みか恒司が女性に逆らえない性格からなのか、碧理に振り回されることも決して少なくはないのだが、それを恒司は不快に想ったことはない。

他人ならいざ知らず、碧理に限っては、だ。

少なからず言えるのは恒司の知る人物の中で最も信頼でき、居心地の良い相手が碧理なのだ。






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