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キミだけを見つめたくて


「ふぅん」

っと、それほど真剣に聞いていなかったのか軽く答えられる。

しばらく沈黙が続き、電車がトンネルを抜けるとホームに滑り込む。

電車から降りホームのエスカレーターに乗りながらふと、恒司が尋ねる。

「今更、何で聞いたんだよ?」

「…う〜ん、べつに〜
なんとなく聞いてみたかったから」

顔だけ僅かに振り向いて碧理が答える。

「俺も一つ聞いて良い?」

どうぞ、と言いながらエスカレーターを降りる。

「なんで今日、俺を誘ったんだ?」

この疑問が今日一日、恒司を悩ませていた。

彼氏でもなければつい先日、告白して玉砕されたばかりだ。

「ん〜この間は悪いことしたなって
それに…」

クルッと振り返り恒司を見上げながら

「恒司と一緒に行きたかったから」

恒司は決して長身と言える身長ではなかったが、碧理が小柄なため必然的に近くに居れば上目遣いとなる。

そして、碧理はこれまた満面の笑みを浮かべている。

その笑顔をもっと見ていたい衝動にかられつつも、自分が赤面していくのを感じて視線を反らしながらなんとか声を絞り出す。

「…ありがと」

「っさ、帰りましょ」

っと、改札に向かう碧理。

「ったく…可愛いんだから」

と聞こえないように、漏れた言葉を碧理は聞き逃したりはせず、慌ただしく「じゃあね」と改札を抜けていった。

碧理は俯いたままスタスタと出口に向かう。
俯いているのは赤面しているのが自分でもよくわかっていたからだ。

でも、最後にもう一度だけ恒司を見たくて振り返ると、彼は改札際から碧理を見送っていた。

互いに小さく手を振り、皆様は足早に駅を後にした。








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