酒は飲んでも(硬派?×お調子者) 大学生になると飲み会ばっかだ。 サークル、語学クラス、合コン、バイト先など、ありとあらゆるところから声がかかる。 俺みたいなフリーでノリが良い奴はお誘いも多かったりするしで、最近は週5ペースで飲んでたりね。 飯は抜いても酒は飲む、みたいな感じ。 飲んで騒いでまた飲んで。典型的なバカ大学生でございます。 今日もバイト帰りにサークル仲間から呼び出しを受けて現在宅飲み中。 男女入り乱れてきゃっきゃうふふと盛り上がりを見せていますわ。 俺は途中からの参加だったから遅れを取り戻すべく3本目のビールに手をかけたところ。 場を盛り上げつつチラリと目の端にある人物の姿を捉える。 こういう場ではテンション上げまくりの俺と違って、静かに酒を飲む男、古賀。 どんなイメージかと問われれば硬派な男、かね。 口数は少ないし、愛想も良いとは言えない。でも顔はすばらしく整っている。 で、こういうチャラい雰囲気の飲み会とか嫌いそうなのに割と参加率は良いから不思議。 もしかしてお目当てのコでもいるのかな。 でも、奴が積極的に誰かに話しかけたりするところは見たことないけども。 皆の輪から少しだけ距離を置いて、なんだか古賀だけは違う世界の住人みたいだ。 そして、俺はそんな世界が違うこの男に、密かに恋をしている。 直接言葉を交わしたのはこれまで数回程度。 テニスサークル(という名の遊びサークル)の活動中、こっそり古賀を観察してみたりするのが日課だったりして、あ、やべー、なんか俺ストーカーみたいだわ。 自分とは違う価値観を持っていそうな奴の立ち振る舞いにひどく惹かれる自分がいた。 古賀は多分ノンケだろうし、この恋が実るとは思っていない。 でも、少しでもいいからあいつの心の隅に俺のかけらを残したい、なーんてね。 酒も入ってるし、酔った振りして絡みに行ってみようかな。 嫌がられたら「酔ってて覚えてない」で乗り切ればいいし。 よっしゃ、行ってみよー。 「古賀君、おつかれー!」 「おう、城内は今日バイト?」 「そ!バイト終わりで駆けつけました〜。イエイ!」 へらへら笑いながら古賀の隣に座る。 あ、肩が触れた。やべぇ密着しすぎ!? でも反応ないし、まぁいっか。 「飲んでますかぁー?」 「まぁまぁ」 「古賀ってあれだよね、飲んでも様子変わんないよねー。強いの?」 「あぁ、俺ざるっていうか枠だから」 そう言いながらグラスを傾ける仕草はなんとも言えず様になっていて、ほんとイケメンだなあ、と見惚れてしまう。 「ふふ、枠とか!じゃぁ沢山飲んでも意味ないねー。不経済な男だわー」 「や、逆だろ。俺が飲むことで経済回してるし」 「あ、そっか。古賀っち経済活動しちゃってんね。あはは、かっけー。俺なんかすぐ酔うしー。てかすでに今酔ってるー」 へへへ、と笑いながら首をかしげると「そうか?」と返された。 およ、どういう意味? 「お前も結構強いだろ。そういう、テンション高いのってもともとじゃん」 「…そんなことないしー、ふわふわして気持ちよくなってるもんねぇーだ!俺は今酔っている!」 ふざけつつも内心焦っていたりして。 …おかしい、なんかバレてる。なぜだ。 結構見てないようで周りの人間見てるタイプなのかー。 …気をつけよ。色々悟られたらまずいぜっ。 パタパタと手で顔を扇ぎながら横目で古賀を観察する。 なんか、思ってたより会話が弾んで嬉しい。 けどさ、どんなにフレンドリーに接することが出来たって、これ以上は俺の望むカタチには繋がらないし深まることもないわけで。 …ああ、俺ってば欲深い。 …ねえ、あんたのその綺麗な瞳の中に、一体どんなコなら入ることが許されんの? 古賀の世界に、俺はほんの少しでも存在することができているのかな? 「…古賀はさ、こういう飲み会、楽しい?」 こっそり、声のトーンを落として聞いてみた。 古賀は、一瞬不思議そうな顔をして俺を見て、その後に少しだけ間をあけてからこう答えた。 「…騒がしいのは、正直苦手だわ」 うん、だよね。分かるよ。 だから不思議だったんだもん。 「じゃあさ、なんで飲み会の参加率いいの?」 聞いたってきっと俺にとってロクなことにならないのに。分かっているのに聞かずにはいられなかった。 …俺はマゾか。 「見張りのため、かな」 「見張り…」 「ああ」 「……そう」 あーあ。 それってやっぱりお目当てのコがいるってことだよねー。 そのコに変なムシがつかないよう目を光らせてるって訳でしょ。 やっぱそうだよね。 あーあ。 頭の中はグルグルと嫉妬や後悔みたいな感情が渦巻いていたけれど、顔には決して出さず俺はへらへらしながらビールを煽った。 決めた。 もう、今日は飲みまくる。 ヤケ酒だ、くそう。 「城内は酔うとキス魔になるよな」 4本目のビールに手をかけていると、古賀がポツリと呟いた。 そう、俺の悪い癖。 誰彼構わずチュウしちゃう。 てか皆バカだから俺がキスしても嫌がらないし、むしろ余興みたいな感じで受け入れてくるんだよね。 あと男にするとなぜか周りの女の子達が喜ぶという不思議。 あ、もしかして、今古賀にキス出来るチャンスを与えられた? 「…そうなんだよねぇ。てか今まさに古賀っちにチュウしたくて堪んないんすけど?」 軽ーいノリで、こんなんいつものことだよ、って感じで爆弾を落としてやった。 まじで、もし万が一本当に古賀とキス出来たら、死んでも良い。 古賀とキスした思い出を胸に、一生右手が恋人だって構わない。 もう不用意に絡んだりとかしないから。こっそり見つめるだけで我慢するから、だからお願い、 「嫌だ」 撃沈。 ま…そうだよねー。 ああ、ツライ。泣きそう。もう死ぬしかない。 けどそんな態度は取れないから緩く笑いながら食い下がってみる。 「なんでだよ、けちー」 目なんてとても合わせられないわ。 顔見たら絶対泣くし。 髪をかき上げるフリをして顔を伏せる。 あー俺はバカだ。 調子にのって結局このざまだよ。 ずぶずぶと自己嫌悪で沈みかけている俺。 そしたら古賀の手のひらが俺の頭に優しく置かれた。 え!って思ったけれど、どんな顔をすればいいのか分からず、黙ったままじっとしていたら古賀が俺にしか聞こえないくらいのボリュームで呟いた。 「お前が今までキスしてきた奴等と一緒の扱いとか御免だし」 …え。 「…え。え?どういう、意味?」 恐る恐る古賀の方に顔を向けてみる。 そしたら、目が合った瞬間ふはっ!て笑われた。 おい。だからさ、どういうこと!? 「ひっでぇ顔!」 「もー、質問に答えなさいっ」 そりゃ変な顔にもなるだろ! てか今大事なところ!笑ってる場合じゃないの! 俺の切羽詰まった様子に気付いているのかいないのか。奴は目尻の涙を擦りながらこちらに顔を近付けてきた。 「遊びには付き合いたくないって意味だけど」 「じゃあ本気なら良いの!?」 「…いいよ」 「っ古賀っち大好きー!!」 俺はそう叫んで古賀に抱きつきながら頬に思い切り唇を押し付けた。 周りの連中はそんな俺を見て「城内がまたやらかしてるよー」と笑っている。 「おい、」 「うん、ごめん。でも本気だから」 こそこそと二人で囁き合う。 あのね、いつもの悪ふざけに見えるかもしれないけど、全然違うから。 てかもう、古賀にしかしないから。 「…城内、お前さ、俺が今までどんだけお前のこと見てたか知らねぇだろ」 俺の耳元にひっそりと低い声が響いて背中がゾクゾクする。 うん。 当たり前じゃん、そんなの知らないよ。 だって、だって俺だけが古賀を見ていると思ってた。 「これからじっくり教えてやるよ」 そう言って不敵に笑う古賀は凄まじい色気を放っていて、それに当てられた俺は、ただひたすらこくこくと頷くことしか出来なかった。 やばいね、アルコールなんかじゃ到底及ばないような気持ちのアガっぷりに目眩がしそう。 俺は震える指で、古賀の手にそっと触れた。 end. [*前へ][次へ#] [戻る] |