[携帯モード] [URL送信]
溝(腹黒×優等生)※
俺は勉強しかできない。

見た目はもやしのようにひょろひょろで顔は青白く、男らしさのかけらもない。
人付き合いが苦手で仲の良い友達もいないから、一人の時間は腐るほどあった。

だから今までずっと勉強優先で生きてきたんだ

周りから根暗のガリ勉と思われても構わない。
毎日コツコツと頑張った分だけ、結果がついてくる。
努力した分、達成感を感じることができる。
勉強だけが俺の取柄であり誇りなのだ。


「工藤、悪かったなぁ」
「いえ。ご対応ありがとうございました。失礼します」

ゆっくりと一礼し、職員室を出る。
俺の手に握られているのは、答案用紙。
たった今、採点の修正をしてもらったもの。

5点、繰り上がった点数を見る。
たった5点。
そのために俺は…。

ぐしゃり、と握りつぶされた答案用紙をひたすら見つめる。


「くーどぉっ」

どれくらいそうしていたのか。ふいに声をかけられ我に返る。振り向くとクラスメイトが立っていた。

「っ、あ、あぁ。山浦…」

彼は席が前後なのでよく顔を合わす相手ではあるものの、今まで挨拶以外の会話を交わしたことはない。
親しげに声をかけられるような間柄ではなかったため、少し驚いた。

「職員室に行ってたのー?」
「…あぁ」
「ふーん?」

どこか含みを持たせるような山浦の話し方に違和感を覚えつつも、彼の人となりを理解しているわけではないのであまり気にしないことにした。

「じゃあ、俺は教室に戻るから」

一応声をかけてからその場を離れようとしたが、彼はそれを許さず、やんわりと俺の腕を掴み動きを止められてしまった。

「…なに?」

当然の疑問を投げかける。
彼は薄く笑みを浮かべながら俺に耳打ちした。

「俺、知ってるよ。お前が」

返却された答案用紙を改ざんしたこと。


どうしてこんなことしたのか、自分でも分からない。
学年トップの座を維持したかったから?

たかが5点上がっただけでどうなるものでもないのに…。

でもまさか俺の不正を見られていたなんて。

「…やま、うら」

嫌な汗が流れ落ちる。
俺は自分の声が震えているのを自覚した。

「ふふ、言わないで欲しい?」
「…頼む。なんでもするから」

ずっと、優等生として振舞ってきたのだ。
こんなくだらないことで高校生活に汚点を残したくない。
そんな思いが脳内を駆け巡る。
俺は必死だった。
気付くと山浦にすがりつくようにして懇願していた。

「いーよぉ。誰にも言わない。その代わり、今日から工藤は俺の奴隷だからね?」

そう言って悪魔のように笑う山浦に、俺はただうなずくことしかできなかった。


「はっ、…うぐっ」
「もー、工藤へたくそ」
「ごほっ、ごめ、もう…無理」

あれから、俺は山浦の性欲処理をするためにたびたび呼び出されるようになった。
彼が俺に直接何かをすることはなかったが、俺は手や口を使って彼を満足させることを強要された。
もちろん今までこんなことをしたことがない俺に、彼は下手だなんだと文句を言いつつも、この行為は継続されている。


苦痛な時間からやっと解放され、洗面所で口をすすぎ顔を洗う。
山浦は一人暮らしをしているので、こういった行為は必ず彼の部屋で行われた。

鏡に映る自分の顔はずいぶんとひどいものだ。

山浦は別に不良なわけではない。
整った顔立ちをしているし、交友関係も広そうだから女に不自由はしていないだろうに、なぜ俺みたいな奴を使うのだろう。
もっと金銭的な要求や純粋な暴力の的になるものと思っていたため、不可解で仕方がなかった。


「工藤、まだうがいしてんのぉ?」
「…いや、」

声をかけられびくりと肩が揺れる。
そんな俺を見て彼は馬鹿にしたように笑った。

「…なに、俺のこと怖いの?」
「…別に」
「そ?」

怖くはない。
ただ不可解で相容れないだけ。

黙ったまま動かない俺に飽きたのか、山浦はリビングに戻りながらこちらに声をかけてくる。

「飯作るけど食ってく?」
「…いや、もう帰る」
「なんでー。まだいいじゃん」
「勉強、したい」

彼と関係を持つようになって、確実に勉強する時間が減っている。
次の試験に影響が出るのではないかと心配で仕方ないのだ。

「別にさー、テスト一番じゃなくていいじゃん。もともと特別なオンリーワンってヤツで良くね?」
「…それ、一番になれない奴の負け惜しみにしか聞こえないから」
「お、言うねぇ」

はは、と可笑しそうに笑う山浦。
そして意地悪げに口の端を上げた。

「でもズルしてまで一番にすがりつくのも格好悪いじゃん?」
「…」

全くその通りで言い返せない。

「そうだな、後悔しかないよ。もう二度とするもんか」
「は、そうだねぇ。そうすれば俺みたいな奴に捕まることもないだろうしね」
「…山浦は、なんで俺にあんなことをさせるんだ?」

俺の問いかけに、彼はにこりと笑い掛ける。

「どうしてだと思う?」
「わからないから聞いている。別に不自由していないだろう?」
「工藤、最近よく話すようになったよねぇ。前は”あぁ”か”いや”しか言わなかったのにさ」
「…」

確かにそうかもしれない。
けれど、今その話は関係ないのに、なんだ突然。

「いつも教室で一人”孤高の人”気取っちゃってさぁ、むかついたから。ただの暇つぶしだよ」
「…そうか。で?俺はいつになったら解放される?もう、十分君に奉仕したと思っているけど」
「…俺が飽きるまでだよ」

山浦の目が細められる。
まるで俺を愛でているようなその視線が不可解。
なぜ、そんな目をしてみせる?

彼は俺を奴隷だと言ったが、実際はとても優しく触れてくるし、想像よりも遥かに丁重な扱いを受けていた。
…一体、俺をどうしたいんだ。
本当に君という人間が理解できない。


蜘蛛の糸に絡めとられた哀れな羽虫?
俺は彼の思うがままに翻弄され、少しずつ嬲られ喰われる運命なのか。
それとも…?


「…やっと手に入れたんだ。そんな簡単に手放すもんか」

ぼそり彼がつぶやいた。
けれど俺はそれを聞き取ることができなくて、彼の顔を見る。

「今、何か言ったか?」
「んーん。何も」


end.


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!