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勿忘草(ラブレター)

『あなたは太陽 私はあなたに焦がれ消え散る運命の朝露』



…なんだこれ?

学校に来てみたら机の中に1枚の紙切れが入っていた。
あなたって俺のこと?
綺麗な字で書かれたそれをじっと見つめたままその内容を何度も反芻する。


「ハリー、おはよー。ん?どうした?」

クラスメイトの筒井に声をかけられ、俺は黙ったまま持っていた紙を手渡す。

「…あ?なんだこれ?」
「なんだと思う?」

筒井は紙に書かれてある内容をじっと見つめてから、こちらに視線を戻した。

「ハリーがもらったの?」
「うん、机ん中に入ってた」
「…へぇ。これってさラブレターじゃん?」
「…やっぱり?」

俺もそうなのかなあとは思っていた。
でもさあ…。

「この文面、ハッピーな雰囲気じゃないのはなぜに?」
「知らねぇよ。まあでもあれじゃん、この手紙の主はお前に告っても見込みないと思ってるんじゃない?お前彼女持ちだし」
「…はあ、なるほど」

戻された手紙に再び目を通す。

「…見込みないのに手紙入れるってのはどういう心境だろ」
「お前に想いを寄せる人間がいるってことを伝えたかったんじゃね?ってか俺に聞くなよ。知らねーし」
「それって意味あるかなあ」
「無視かーい。…そいつにとってはあるんじゃねーの」
「…」

よく分からない。
だって俺がこの紙の存在に気づかなかったらどうするんだ。
それとも、俺が絶対に気づくと確信していた?もしくは…。

「これ、同クラの仕業だよね」
「…どうしてそう思う?」
「や、俺だったら好きな人がこの紙を見てどういう反応するか見てみたいから」
「ほう」
「他クラスじゃ様子伺うのって結構大変じゃない?いつ来るかわからない相手を見張ってたら明らかに挙動不審じゃん」
「まあ確かにね」

今、教室内はほぼクラスメイトたちが席についている状況だ。
この場なら誰かがこっそりと俺のことを見ていてもきっと俺は気づかない。

「筒井、これ、誰が書いたか分かる?」

持っていた紙切れを撫でながら筒井に問いかける。
そんな俺の様子を見て、彼はものすごく嫌そうに顔をしかめた。

「俺が知るかよ。つーかさっきからなんでいちいち俺に聞くんだ?」
「…なんでかな?筒井の意見が聞きたいから?」
「……委員長とかじゃね。なんか文学少女って感じじゃん」
「ああ…、いつも本読んでるよね」

クラス委員の山崎さんをそっと覗き見ると、今も文庫本らしきものを手にしているのが目に入る。
清楚で凜とした佇まい。才女という言葉が相応しい彼女。

でも、違う。

「委員長にしては文面に自信が無さすぎかなあ、とか」
「ちょ、お前の委員長に対するイメージってどんなだよ!」
「確固たる自分の世界があるヒト。プライド高いよきっと。あ、これは悪い意味じゃないけど」
「…あっそう。じゃ、あとは一人で頑張ってくれ。俺はもう手伝わないぞ。自分で解決しろな」
「えー」
「えーってなんだ」

筒井は呆れた様子でふう、とため息をついてから自分の席に戻っていった。

ぼんやりと筒井の背中を目で追う。

わからないな。
やっぱりわからない。



「どうして、これを俺に?」

放課後。
俺は日直の筒井に付き合って教室に残っていた。
黙々と日誌を書いている筒井に向かって聞いてみることにしたのだが。

「…は、なにが?」

ちらり、と俺の方に顔を向けた筒井は、再び視線を落としペンを走らせる。

どうやら、しらばっくれる気らしい。

ゆがみのない綺麗な字で書かれている日誌の上に、俺は持っていた紙を置く。

「…」
「字が同じ、だよね」
「…」

俺の言葉に筒井は少しだけ身動ぎし、無言のまま視線をさ迷わせた。その後ようやく観念したのか握りしめていたペンを置き、ゆっくりと息を吐いてこちらに顔を向けた。

「…結構、誤魔化せてたと思ったんだけど」
「俺、筒井の字くらい判別つくし。あと、筒井が普段ちゃらついてるくせに、家では純文学系読んでて割りとロマンチストだってことも把握してるよ。それに、朝の取り繕ってる感、半端なかったから」
「へー…。はじめから分かってて俺に誰だと思う?とか聞いてきたのかよ…。お前、悪趣味だな」

自嘲気味に笑う筒井。

あぁ、違う。
そんな顔をさせたくて言ったんじゃないのに。

「…100%確信してたわけじゃなかったから、それで反応見てたのは認める。不愉快だったなら謝るけど」
「や、不愉快つーか。ただただ恥ずかしいだけ」

そう言って両手で顔を覆いながら項垂れる筒井をじっと見つめる。

「…イタズラじゃなくて、これ本当にラブレターなの?」
「……お前の希望はどっちー?もう、お前の好きな方でいいわ」
「ちょっと、なんでそんな投げやりなの。俺がどう思ったか知りたくない?」
「っ、男が男に告白して明るい未来を想像できるほど、俺は楽天家じゃねぇよ!」

バン!と机を叩く音に驚いて目を見開く俺に、筒井はごめん、と小さな声で謝った。

「まじごめん。ただの八つ当たり」
「…」
「バレたらこうなるって分かってたのに止められなかったのは俺じゃんね。ホントに馬鹿だわ。…でも気づいて欲しいって、どこかで願ってたんだ。矛盾してるけど。……あー、あのさ針山、嫌じゃなかったら明日からも今まで通りでいてくれる?今更もう、無理?」

そう言って、筒井はぎこちなく笑った。

だからさ、なんでそうやってすぐ一人で完結させようとするの。
全く自分勝手な男だな。


「無理だよ」

…そんなの無理に決まってる。
もう筒井はただの友達じゃない。
俺のことを思ってくれているその気持ちを無視して、今まで通りに振る舞うなんてこと、出来る訳がないよ。

「そっか、やっぱ無理か」

そんな俺の思いを知らず俺の言葉を逆の意味に捉えたらしい筒井は、傷ついた表情を無理に笑って誤魔化そうとしていたが、再び俯いてしまい、こちらを見ようともしない。
筒井の態度に腹が立ち、俺は奴のつむじをぐりぐりと指で押しつけた。

「…っ痛いんすけどっ」
「どうして筒井はそんなにヘタレなの」
「…どういうメンタルであれば自信満々にお前のこと口説けるのか逆に聞きたい」
「別になにも必要ないよ。これだけで十分」

筒井の書いたラブレターをもう一度指差す。

「俺、太陽なんてガラじゃないけど、そう思ってくれてたのは純粋に嬉しい。ありがとう。俺、お前のことなかったことにしたりしないし。これからもずっと一緒にいよう?」
「…うそじゃん、そんなん…」
「なんで?俺、筒井が思ってるより全然筒井のこと好きだと思うよ」

俺の台詞を信じられないと言った様子で凝視する筒井の手を優しく握る。

「…っ」
「筒井、信じて。俺本気だから」
「だってお前!…彼女は?」
「気持ちを誤魔化して別の誰かを好きになろうとしても無理だよね、すぐ別れちゃったよ」
「…なんで言わなかったの」
「それは…油断させようと思って?」
「ほんと意味わかんねぇし。……まじなの?」
「うん、まじまじ」

筒井は顔をくしゃくしゃにして、涙を堪えているようだった。
あーあ、せっかくの男前が台無しだ。

「…っ、ずっと好きだった。でもこんなん間違ってるって何度も諦めようとしたけど、全然出来なくて!俺だけ苦しいの嫌だったんだ。だから針山がちょっとでも悩めばいいと思って俺…」
「うん。一緒だよ、俺も同じ。だからもうお互い一人で悩むのやめよ。間違っててもいいよ。二人でなら苦しいのも半分こできるから」
「針山」
「うん」
「ありがとう」


筒井の目から涙がポロリとこぼれた。


…そうだな、せっかく俺のことを太陽だって思ってくれているのなら…お前の涙くらい俺の力で消し去ってみせようか。

「筒井、好きだよ」

そう呟いて、俺は涙に濡れる筒井の目尻にゆっくりとキスを落とした。


end.

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