明日からは一緒(モテ×高校デビュー) 中学を卒業して3ヶ月が経ち、高校生活にもだいぶ慣れてきた今日この頃。 久しぶりに中学の同級生と遭遇した。 「うわ、みっくんだー!久しぶりー元気にしてた?」 高校が離れると、朝の時間帯もずれてしまうのかなかなか会うことが出来ない旧友の顔を見れて、俺はかなりテンションが上がっていた。 みっくんこと充は、かなりのイケメンさんだ。 中学の頃から背が高く程よく筋肉のついた理想的な体型、顔はクールで男らしい顔立ちをしていた。もちろん女の子にもモテモテで。ひょろひょろで女顔の俺とは正反対な充は、ずっと憧れの存在だった。 そんな彼が、嬉々として話しかける俺を上から下までまじまじと見つめている。 「お前、田辺だよなあ?…なんか、随分ギャル男っぽくなってるけど」 「…え、えーっっ」 かなりの衝撃を受けた。 なになに、ギャル男ってなんだよー!? 確かに髪を染めはしたけど、盛らずに整えた程度だし。 あと外見の変化としては眼鏡からコンタクトに変えたくらいでアクセだってジャラジャラさせていないしさ。 せめてオサレ高校生くらいにして欲しかった! 思わず恨めしげな目になって充を見つめる。 「…俺、そんなチャラついて見える?」 「高校デビュー感甚だしい」 ががーーん! 「ま、まじで?」 確かに中学時代の俺は地味な見た目だったかもしれない。 周りからはそんな地味男が無理してみっともないとか思われてたのかなあ…。 先程までの充に会えた嬉しさやワクワク感が急速にしぼんでいく。 なんだか恥ずかしくなって、しょぼんとしていたら充に頭をくしゃりと撫でられた。 「みっくん?」 「…嘘だよ。ちょっとびびって憎まれ口叩いただけだから」 ビビる? 何に。 はてな、と首を傾げていると、友人は苦笑いを浮かべていた。 …なんでそんな顔するの? 「俺の知らないところで変わっていくなよ」 「え?」 ぼそりと呟かれた言葉を聞き取ることができずに、もう一度聞き返してみたのだが、充はそれ以上何も話そうとはしなかった。 少しだけ二人の間に沈黙が起きる。 「…お前、今彼女いんの?」 「はいっ!?」 唐突な質問に声が上擦る。 なんなんだ急に。 「そんな小綺麗にしてたらモテんじゃねーの」 「いやいや、みっくんに言われたくないし。別にモテないよー。なんか周りからは友達以下のペット扱い?みたいな…」 はは、と眉を下げて笑うと可愛がられてんのは変わんねーんだな、って笑われた。鼻で! 俺が知っているみっくんは彼女が途切れたことのない人だったから、勿論いるんだろうなぁ、可愛い彼女。 「俺もいないけど。てかずっといねぇし」 「え、そうなの?」 考えていたことが表情に出ていたのかな。充から意外な言葉が出てきて驚く。 「でもみっくんモテモテでしょ。ずっと彼女がいないなんて、どうしたの?」 病気?って聞いたら頭を叩かれてしまった。軽くだけどね。 「そんなん、好きな奴がいるからに決まってんだろーが」 「あぁ、そっか!そうだよね」 「…ま、イロイロ思うところがあって…学校離れるし、諦めようとはしてたんだけど。久しぶりに会ったらやっぱ忘れんの無理って思ったわ」 充の好きな人って同中のコなんだね。彼がここまで思う人がいたなんて、全然知らなかったな。 「…そっかあ。なかなか会えないのって辛いよね」 「まあ。それにそいつ、全く俺に気がねぇし、害虫駆除も兼ねてこれから毎日顔合わせてなきゃ駄目な気がしてきた」 「えー、みっくんのこと好きにならない女の子なんてこの世にいるの!?」 「そりゃいるだろ。てか今までアプローチとかしたことなかったし。これから仕掛けるけどな」 俺の顔を覗き込むようにして不敵に笑う充は本当に格好良くて、男の俺でも思わず見惚れてしまうくらいだ。 「うん、みっくんなら本気出せばすぐ相手も落ちちゃうよ」 うんうんとうなずいていると隣からため息が聞こえた。 「鈍感」 「え?何、俺が?」 聞き返すが、なんでもないと返された。 さっきからなんだよ、もう。 「お前、朝はいつも何時の電車?」 「えーっとね、大体7:30〜40くらいのに乗ってるよー」 「ふーん、じゃあ俺も同じの乗るから、必ず1両目に乗ってろよ」 「え?なにどうしたの急に。全然構わないけどさ」 俺の問いかけに、充がふっと息を漏らすようにして笑う。 「お前、俺の話聞いてた?だから鈍感だって言ってんだよ」 「…え?だって。…うん?あれ、」 充の話を反芻し鈍感の意味を察した俺は、みるみる顔が赤くなっていく。 え、え。どういうこと。 充が好きなコって…。 「そもそもさ、この俺をみっくんなんてふざけた呼び方してんの、田辺くらいだけど。お前だけに許してたってこと、分かってる?」 「……う、あの、ごめん」 まったく自覚してませんでした。 ていうか嘘でしょ。 なんで充が俺を…? 「みっくん、あの…それ、本気なの?」 「俺、意味のない嘘とかつかねーけど」 そう言ってさらりと俺の髪を撫でてくる。 ど、どうして今俺の髪を触るの! 彼の行動は、俺には理解の範疇をはるかに越えていて戸惑うばかりだ。 「顔まっか」 「そ、そりゃ、みっくんにこんなことされたら誰だって赤くなるでしょ」 「お前、今までならなかったじゃん」 「っ」 それは、そういう意識をしてたかどうかの差でしょ…。 だって憧れの!理想の存在だった充が俺のことを好きになるなんて。普通の神経してたらおおよそ考えつかないから。 「…俺、なんか今結構やばい。これからどんな顔してみっくんに会えばいいの?」 両手で頬を覆いながらちらりと視線をやると、充は愉快そうに笑いながら俺を見ている。 「さあね。とりあえず明日から俺のこと意識してしまくって、そのまま俺に流されたらいんじゃね」 「こ、怖いこと言うなよー」 「本気だけど?」 「〜〜っ」 もう、まだ信じられないけれど。 俺が充の本気を嫌と言うほど知る羽目になるのは、まだもう少し先の話。 end. [*前へ][次へ#] [戻る] |