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残念な彼氏(浮気?×一途)
俺には残念な彼氏がいる。


昼休み、隣のクラスを覗いてみるといつもの光景が目に入った。
俺は恋人である拓海に会いに来た訳だが、奴は両手に女を侍らしているのだ。

…なんなの、こいつら。
つーかここ教室だろ。この女どもは何甘えた感じで拓海にもたれ掛かってんの。
取り巻き以外の奴らは皆ドン引きしてんじゃん。

で、肝心の拓海はと言うと特に嫌がっている風でもなく、普通に周りの奴等と談笑している。

ありえない。
まじでありえない。

「拓海、ちょっとこっち来いよ」

不機嫌であることを隠さずに苛々と声をかけると、俺に気づいた拓海がへらりと笑った。

「あ、まー君だあー。俺歩くのダルいからまー君がこっちに来てくんない?」

足腰の弱ったじじいか、てめぇは。

俺は拓海の言葉を無視し、教室の入り口に立ったまま奴を睨み付ける。

そんな俺の様子に拓海は軽く肩をすくめ、「よっこらせー」とか言いながら立ち上がった。
教室から出て行こうとする拓海に向かって女どもは「拓海どこ行くのぉ?」「すぐ戻ってきてねー」などと声をかけているが、奴は手を軽く振るだけで振り向きもしない。
愛想が良いのか悪いのか良くわかんない奴だ。

「はい、来たよ?」

そう言って俺に微笑む拓海は間違いなくイケメンだ。
けれど問題のありすぎる中身をどうすればまっとうにすることが出来るのかは、未だに分からない。

「…いつもの所、行くから」

拓海の手を引いて、使われていない空き教室へと向かう。

校舎の一番端にあって普段は施錠されている教室だが、俺はコネがあって鍵を手に入れることができたため、サボりたい時や密会する時はここを利用していた。


中に入り施錠する。

息を吐いてからゆっくり振り向くと、拓海が制服のボタンを外しているのが目に入った。

「お前、なにしてんの?」
「え、今からヤるんじゃないの」
「ヤんねーよ!」

こいつはぁ…。
なんで分かんないの、この状況を。
馬鹿なの?

「…お前さ、いつもいつも女侍らせて一体なんのつもり?お前の恋人って俺だよな!?ほんと意味わかんねえし!何考えてんだよっ?」

怒りのままに怒鳴りつけたが、拓海は涼しい顔をしている。

「別にぃ…、あんなの居ても居なくても同じだし?空気みたいなもんだから。空気が邪魔だって振り払ったりとかしないでしょ。…まあ、そんな感じ」

どんな感じだよ!!
ど、ん、な、感じだよ!!?

「俺が!嫌だって言ってんだよ!お前に色目使って群がる女たちを見てるとムカつくんだっ」
「あは、可愛いー。妬いてるの?」

心底楽しそうに笑う目の前の男に何を言っても無駄なんだろうか。

こいつの打っても響かない、何を考えているのか分からないミステリアスな部分に惹かれた筈なのに、今はそれが俺を苦しめている。

俯いていたらいつの間にか目の前までやってきた拓海が俺の頬を撫でた。
まだ納得できない俺はその手を振り払う。

ふぅ、とため息をついた拓海が俺の顔を覗き込んで、口を開いた。

「…そんなに嫌なら別れる?」
「は、絶対別れねぇわ、ボケ」

間髪入れずに答える。
だってそれとこれは話が別だ。

つーかなんで平気でこんな事言うんだろ。
ほんと最悪、ありえない。

…けど。
それでも好きだ、好きなんだ畜生。
絶対、誰にも渡すもんか!

睨み付けるようにして見上げると、満足した様子で笑みを浮かべる拓海と目があった。

…くそ、なんだその顔は。
お前、俺が別れないって言うの分かってて聞いただろ。
俺を試すようなマネすんじゃねーよ。
あぁ、むかつく。

「拓海…好きだ」

奴の制服の裾をそっと掴んで静かに呟いた。
すると、拓海は俺の目尻に軽く唇を落としてから、「俺も好きだよ?」と答える。
…本当かよ。

情けない話だけど、こいつが俺を好きだっていう確信を持てたことって一度もないし。

だから、薄っぺらく見える言葉でも信じたい。
お前には俺だけなんだって。


けどこんな状況を、いつまでも許していられる程、俺は寛容にはなれなくて。


ある日、とうとう爆発してしまった。


バシッ。

拓海の頬を叩く音が教室中に響き渡った。

「…もう、いいわ」

驚いて目を見開く拓海にそう一言だけ言って教室を出ていく。

ああ、公衆の面前で何してんだろ。
でももう我慢の限界だった。

あいつ、今女とキスしてたから。
もうそこまでいってたら完全にアウトだろ。
勢いのまま殴ってしまった。

きっとアイツは追いかけてこない。
面倒くさいの嫌いだから。
むしろやっと解放されたとか言って喜んでるかもな。


はあ落ちる。
なんで俺ばっかり辛いんだろ。
片想いしてた時と変わんないじゃん。むしろ悪化したんじゃない。

本当、なんであんな奴を。
…俺は今でも好きなんだろ?

溢れる涙を拭いもせずに俺は空き教室へと向かう。
ちょっと、しばらく籠ろう。

いつもの場所に辿り着き、ドアの鍵をポケットから出していたら腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、そこには拓海が立っていた。

「…っ、」

うそだろ。

「…まーくん、まじ足速いね。追い付けなかったんだけど」

そう言って笑う拓海の息が軽く切れていることに気づき、本当に走ってきたことが分かる。

なんで?
面倒くさいのが嫌いなんだろ。
どうして追いかけてくんの?
なんで期待させるようなことすんの。

「…ね、まーくん、俺と別れたいの?」

そうやってお前はいつも俺に選ばせようとするよな。

でも本当は俺が「別れない」って言うと思ってんだろ。
…あのさ、いい加減無理だよ。もう限界。
俺だけが一方的にお前を好きなんて嫌だ。
そんなの、恋人同士じゃないだろ。

「別れる。もう無理」

はい、おしまい。

もう俺に気兼ねなすることなく、いつでもどこでも女侍らせて遊んでください。

俺は出家するし。

拓海の横をすり抜けて教室から出ていこうとすると腕を引かれてそのまま抱き込まれた。

「無理無理。別れるなんて絶対無理だけど」
「は!?」

なに言ってんだこいつ。

「もー、本当に俺にはまーくんだけなんだけど!その他大勢とかまじどーでもいいし。そいつらのために自分から動くのとかダルくて死ぬもん」
「…だから、向こうからキスしてきても拒否しなかった訳?」
「うん」

うん、じゃねーよ。
なに純粋な目で俺のこと見てんだよ。

「お前のその感覚は普通じゃねーから。そういうの変わらない限り無理」
「頑張ってみるけどーぉ、俺のエネルギーをその他に使うの面倒くせー…。俺が自分の意思で動くのはまーくんのことだけだから。まーくんを中心に俺の世界は回ってるからね」
「…俺が一番なら、俺が嫌がることはすんじゃねーよ」
「…うん、分かった」

本当かよ…!?

で、結局許してしまう俺。
甘いよな。
分かってる。でもこいつ馬鹿だし。
とにかくイチから教育していくしかないんだと思う。


翌日。

拓海の教室を覗いてみる。

「…まじか」

…拓海の周りに女がいない!
なんで!?

よく見るとなんかクラスメート達にめっちゃ笑われているけど。
何があった!?

こっそり近づいてみると、拓海の右腕に腕章がついていた。

『触るなキケン!性病持ち』

…。

馬鹿すぎる。

どうやら男子には大ウケで、女子はドン引きしているようだ。

まぁ、努力は認めるけどさー、それいつまでつけるの?
卒業まで?

黙って拓海の様子を見ていたら、俺に気づいた拓海が満面の笑みを浮かべてピースをして寄越した。

大・成・功!じゃねーよ、馬鹿。

てかもう、こんな馬鹿、俺しか相手できないでしょ。
仕方ないな。


これからもずっと俺が恋人でいてやるよ。


end.

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あきゅろす。
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