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honey(美形幼馴染み×平凡フェロモン)
「ねー、市川ってなんでいつも良いニオイすんの?香水?」

クラスメートの阿部にくんくんと首筋あたりのニオイを嗅がれ、背筋が凍りそうになる。

「やめろ、キモイわ!」

慌てて阿部から逃げ出し、同じくクラスメート兼幼馴染みである神田尚の後ろに隠れた。

「…あー、こいつはね、イケメンホイホイだから」
「はあ?ナニソレ」

尚の言葉に阿部が不思議そうな顔をする。

「なんかイケメンだけが感じとれるフェロモンみたいのが出てるらしいよ。昔からイケメンばっかに追い回されてんのよ、ミツくんは」


これ、嘘みたいだがほんとの話。
思春期を迎えた頃から、なぜか周りのイケメンと呼ばれるような男達が俺を見ると言い寄ってくるようになったのだ。
酷い場合、貞操の危機を感じるような目にもあいそうになったりして。
けれど、どんな時も必ず助けに来てくれるのは尚だった。

「じゃあ俺はイケメンに認定されたってこと?…けどさあ」

尚の説明を聞いた阿部は、俺と尚を交互に見ながら疑問を口にする。

「神田こそ結構なイケメンじゃん?お前は平気なの?」
「…え、うーん。俺は子供の頃からミツと一緒だから耐性ついたのかな」

そう。そうなのだ。
尚も世間ではイケメンに分類されるが、こいつだけは一度たりとも俺を脅かすようなマネをしたことがない。
だから俺が信じられるのは尚だけ。
あとのイケメンは皆この世から消えてなくなれ!と思っている。

「男にはモテるのに女は寄ってこないとか悲劇だね。市川、性別間違って生まれたんじゃね?かわいそうに」
「うるせー、ほっとけ!」

阿部が心底哀れそうな目で俺を見る。
大きなお世話だ!そんなの、とっくの昔に吹っ切れたわ!それからな、別に男全般にモテるわけじゃないし!イケメン限定だし!(全っ然嬉しくないが!)

尚の背後から阿部を睨んでやる。
するとなぜかにっこりと微笑まれた。

「そんな見つめないでくれる?襲いたくなるんだけど」
「っぎゃー!ふざけんな!イケメンはシネ!滅びろ!」

叫びながら教室から走って逃げた。
恐ろしい!絶対阿部とは二人きりにはなれねぇ!


「市川ってバカで可愛いな」
「まじで止めてあげて。ミツこれまでも散々酷い目にあってるから、イケメン恐怖症なんだよ」
「…へぇ?大変だね、神田も」
「…別に俺は」
「そーお?ほんとにー?」
「…俺のことはイジらなくていいから」

なんて話を二人がしていたことを、勿論俺が知るはずもなく。
とにかくどうすればイケメンと接触せずに生きていくことができるのか、それだけを考えて頭を悩ます俺なのであった。


「尚ー、俺今日居残りだから先帰ってて」

放課後になり、皆が帰り支度をしているところで尚に声をかける。
振り向いた幼馴染みは心配そうに俺を見下ろしていた。

「…一人で大丈夫なの」
「おう」

俺は胸ポケットから手帳を取り出す。

「俺が把握する学校のイケメンどもは運動部か帰宅部で、頭悪いヤツはいないからこの時間に教室でエンカウントする確率はほぼない!」
「へ、へぇー?」

危ないのはイケメンと二人きりになることだからな。
電車内や周りに人が沢山いる時、俺のフェロモンは薄まるらしく、今まで襲われたことはないから安心だし。
俺だってちゃんと気をつければ危険は回避できるんだぜ!

「まじ大丈夫だし。尚は先帰ってて」
「…うーん、わかった。本当に気をつけてよ」
「あいあい」

いつも尚に助けてもらってばかりじゃ悪いからな。
たまには自由を満喫してもらおう。
そして俺は課題を頑張らねば。進級できなくなってしまう…!


「…ふう」

1時間ほどたっただろうか。
時計を確認すると16時を過ぎていた。

「こんなもんかねー」

先生、これで許してくれ。これ以上のレポート作成は俺には不可能だわ。
とりあえずやることはやったし、一安心だな。

荷物をまとめていると教室のドアが開いた。

「あれー、市川なにしてんの」
「げぇっ!!!」

入り口に立っていたのは、まさかの阿部であった。
イケメンらしくサッカー部に所属している阿部は、この時間は部活動真っ最中のはず。

「は!?何でっ!お前部活は!?」
「捻挫しちゃってさー。今から病院行こうかと思って」
「っえ、まじ!?大丈夫か」

慌てて駆け寄り、阿部の様子を伺う。

「…まぁ軽く捻っただけだから、大したことないとは思うんだけどー。…てか、いいの?」
「は?何が」

顔を上げて阿部を見ると、にやーと意地悪そうな笑みを浮かべている。

「一瞬前まで俺のこと超警戒してたくせに。油断してない?」
「はっ!」

わ、す、れ、て、た!!!!!!

「…な、なんかしてみろ…お前の足、蹴るからな!」
「えー、こわーい。でもさ、市川優しいからそういうの無理でしょ。サッカー部員の大事な足、蹴るとか」
「…そんなこと!」

何言っちゃってんの?蹴るよ!蹴っちゃうよ!?俺別に優しくなんてないしね!

「って、ぎゃー!!!!」

もだもだしていたら阿部に抱きこまれたぁぁぁぁぁ!!!!

「離せ!はーなーせぇぇぇぇぇ!!!」
「あはは、かーわいー。てかやっぱ良いニオイする。なんで??どういう仕組み?」
「っひぅ!!」

うなじのあたりをべろりと舐められた。
体中があわ立つような、血の気が引いていくような、とにかく最悪な感触。

「…いい加減にしてくれる?」
「いてっ」

ずびし!と何かの衝撃を感じて振り向くと、阿部の頭をチョップする尚が目に入る。

「ひ、ひーちゃーーーん!!!!」

動転していたせいか、つい子供のころの呼び方で尚に助けを求めてしまった。

「まったく、やっぱり残っていて良かったよ」
「さすがー長年の勘てヤツですか」

二人が話している間に救世主である尚に抱きつこうとするが、身体が言うことをきかない。
よく見ると、まだ阿部に拘束されたままだった。

「阿部離せよ!まじで蹴るぞてめぇ!」
「えー、なんかむかつくじゃーん。神田はいつまで王子様気取りで市川の傍にいるつもりなの?」
「はあ!?」

王子様ってなんだよそれ。
尚は俺の意味わかんない体質を不憫に思って庇ってくれてるだけじゃん。
訳が分からず尚の方を見てみると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「…だからさ、俺のことはほっといてよ」
「だめー、なんか神田って見てると歯痒くてイライラすんだもん。ここでハッキリさせてくんない?そしたらお姫様は返してあげるー」
「ん?んん?」

俺は尚と阿部の顔を交互に見る。
なになに、一体どういうこと?

「…はあ。阿部、ミツは俺のだから返してくれる?」
「はあい、どうぞ?」

尚の一言で阿部はにっこりと笑顔を浮かべ、すぐに俺を解放した。俺は良く分からないままとりあえず目の前の尚に抱きつく。

「じゃ、あとはご勝手に。俺は病院行くわー」

そう言い残し、阿部は机に置いてあった荷物を持ってさっさと教室から出ていった。
途端に静まり返る教室。
…えーっと、

「俺って尚のものなん?」
「…そうだよ。知らなかった?」

うん、全然知らなかった。
そっかそっか俺って尚のものだったのかあ。

「…って、違う!」

頭を振って脳内の自分に突っ込む。

こいつもなんだ!けろりととんでもないことを言い出すし!

尚の顔をちらっと覗き見ると、驚くほど切なげな目が俺を見つめていた。
尚のこんな顔を今まで見たことがなくて、どくどくと心臓が波打つように鳴り出した。

うわ、どうしたんだ俺の心臓!静まれー!!

「…ミツのこと、子供の頃からずっと好きだったんだ。年頃になってからはこんなことになって、いつか誰かにミツを盗られるんじゃないかって気が気じゃなかったよ。ねえ、ミツが大好き。だから俺の恋人になって?」


尚の告白に、俺の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
だって尚の言葉は今までのフェロモンにやられた男たちのソレとは全然違う。
本気で俺のことを大事に思ってくれてる尚の言葉に嘘はないから。
だから、嫌悪感なんて微塵も感じないし、嬉しいとすら思えた。


「ひ、尚!俺、嬉しいけど、やっぱ男に迫られるのは怖いから尚の望むようなことに応えてやれないかもしれない。…それでもいいの?」
「…いいよ。ミツのこと10年以上思ってきたし、ずっと我慢してきたんだから、今更って感じ。むしろ受け入れてくれるなんて思わなかったから…すごく嬉しい」

そう言うと、尚は優しく俺の手に触れ、ちゅ、と軽く唇を触れさせた。

「…嫌じゃない?」
「う、うん」
「良かった」

にっこりと微笑む尚につられ、俺も一緒になって笑った。


こうして信頼していた幼馴染みは恋人へと呼び名が変わった。
そしてその頃から、イケメンホイホイの効果も徐々に弱まっていき俺は正真正銘ただの平凡男になった。

けれど、尚だけは変わらず俺を好きだと言ってくれる。
やっぱり俺には尚だけだ。

ありがと、俺も大好きだよ。


end,

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あきゅろす。
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