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secret garden(人気者×無口)
クラスでは明るくて爽やかな人気者の青木君と言われている俺。
けれど四六時中そうかと言われたらそうでもない。

たまには一人でぼーっと黄昏たい時だってあったりするのだ。

学校の裏庭の更に奥へと進んで行くと、植木等で隠れているが、そこには四畳位の空間がひっそりと現れる。
あまり人が来ることのない穴場で、一人になりたい時によく来る場所だった。

しかし今日は珍しく先客がいた。
長めの黒髪から覗く涼しげで切れ長の瞳が印象的な…先輩だ。(ネクタイの色が1年の俺と違っていた)
背はさほど高くない。けれど細身のすっきりとした体形をしていて、立ち姿が美しいと思える人だった。

「…あ、と。お邪魔してさーせん!失礼しまぁす」

笑顔を作って退散しようとすると、先輩がこちらをちらりと見てから呼び止めてきた。

「なんで?ここにいれば」
「え」

…だってココって明らかに一人になりたいから来る場所って感じでしょ。
しかも初対面の人間がいたら気まずくない?
それに俺後輩だし、追い出したって何の問題もないのに。

「…でも、お邪魔になりません?」

一応そう言ってみると、不思議そうな顔をされた。

「邪魔だったら言わないし」

う、まじすか。そんなん言われたらこの場を離れずらくなるじゃん…!
…まあ、しょうがないか。

「…じゃあ、少しだけ休憩させてくださーい」

先輩にも動じないお調子者の青木君は、にこにこ笑いながら先輩から少し離れた場所に腰を据えることにした。


「…先輩なにしてんですか?」

先輩は先程から小さな器を木の枝に縛りつけてようとしている。

「鳥のえさ…」

俺の問いかけに一言だけ答えると、またもくもくと作業を続ける先輩。
…うーん、この人ってなんか変だわー。

しかも自分の身長に合った枝を選んでないからめっちゃ背伸びしてて辛そうだし。

最初は黙って見ていた俺だったが、先輩がもたもたとしている様子にだんだんイライラしてきてしまい、先輩の後ろに回って紐と器を取り上げた。

「ここにつければいーんすか?」

突然のことにぽかんとした顔で俺を見ていた先輩は長いまつげをぱしぱしと瞬かせ、

「…そう、そこ」

と、一言だけ返事を返してきた。
…やっぱり変わった人だなあ。けど、なんか子供みたいで可愛いかも。

先輩に代わってえさの入った器を木の枝にくくりつけ終わると、その様子を後ろで眺めていた先輩がパチパチと手を叩いていた。
ちょっとだけ嬉しそうな顔、してるみたい。目を輝かせて(…多分)木を眺めている姿を微笑ましく思った俺は、少しだけ先輩と交流を図ることにした。

「先輩、鳥の観察が趣味の人なの?」
「…観察が趣味…?」

先輩はうーんと首を傾げて考え込んでいる。
え、そんな難しい質問だった?

「…別に趣味ってほどじゃない…」

たっぷりと考えたらしい結果、趣味ではないことが分かった。
あ、そうなんだー。
って、なんなんだこの人のテンポ!
これが不思議ちゃんって奴なのか…。

んー、未知との遭遇。


その後も何度かこの場所に足を運ぶと、必ずと言っていいほど先輩がそこにいた。
先輩は水野と言うらしい。水野先輩はいつもこの狭いスペースにレジャーシートを敷いて寝ていた。

「寝ながら鳥が鳴いているの聞くと癒されない?」

そう言ってうっすら微笑んだ先輩。
…なるほど。
えさはそのために用意されたものだったのか。

俺も一緒に座らせてもらい、鳥のさえずりに耳を傾ける。
確かに落ち着くかも。てか眠くなるなあ…。

「先輩、俺も横になっていいー?」
「…ん」

すっかり遠慮もなくなった俺は、先輩の了承を得て隣に寝転ぶ。
こんなところで男二人が、一体何やってんだろ。

でも、俺は先輩と二人で過ごすこの優しい時間を、すっかり気に入ってしまった。


「青木最近よく行方不明になるけど何処でサボってんの?」
「…えー?ひ・み・つ」

そう、以前は週に1回行く程度だったあの場所に、先輩と顔見知りになってからほぼ毎日通うようになっていた。
ちょくちょく居なくなる俺に、いつも一緒に居る友人は不思議に思ったようだ。

あそこは俺と先輩だけの秘密の場所だもん。誰にも教えないよ。

ゆるゆると笑みを浮かべる俺に、クラスメイトたちは変な奴ーと笑っていた。

「よっし、次教室移動だろ?早く行こうぜい!」

機嫌良く廊下を歩いていると、前方から水野先輩が歩いてくるのが見えた。
あの場所以外で会うのって初めてかも!
俺は嬉しくて先輩に向かってぶんぶんと手を振り、「せんぱーい!」と声をかけた。

声をかけたのだが。
当の先輩は俺をちらりと見ただけですぐに視線をそらし、俺の横を無言で通りすぎていった。
…え、なんで?
俺のこの挙げた右手は一体どうしたらいいのよ。

呆然としていると、後ろから駆け寄ってきた友人が声をかけてきた。

「お前、あの人と知り合いなの?」
「え、うん、多分…?」

さっきの先輩はいつも以上に無表情で感情の読めない顔をしていた。
なんであんな顔?
なんだか俺の知ってる先輩じゃないみたいだった。

「なあ、さっきの2年の水野さんだろ?綺麗な顔してんのに全然しゃべんないし、無表情で変わった人だよなー。あの人が笑ったところ見た人誰もいないぜ、きっと!」
「へぇ…」

はあ?何言ってんの。俺は見たことあるけど?
まあ全開の笑顔ではなかったが。

「なんか青木とは真逆の人間って感じじゃね?」
「…そう?」
「そうじゃん!全っ然違うだろ!話とか絶対合わなそうだし!」
「てかその前にあの人しゃべらないじゃん!」

友人たちの言葉を笑いながら聞いていたが、その時俺は全く逆のことを考えていた。

…別に会話が弾まなくたって、先輩と一緒にいると楽しいよ、俺は。



「さっき、なんで無視したの」


今日はいないかもと思いながら足を踏み入れたあの場所に、先輩はいつも通りの様子で佇んでいた。

俺の気配を感じてのそりと起き上がる先輩は、なんだか野良猫みたいだ。

「……俺と知り合いだってバレたら、お前がいじめられるかと思って」
「それ本気で言ってる?そんな訳ないでしょ、ばかじゃないの」

呆れたようにつぶやく俺を、先輩がじっと見つめる。
意味がわからないって顔。
いやいや、それこっちの思うことだからね。

「…先輩はバカだよ。もう、ぜったいあんなことしないで。俺結構傷ついたんだから」
「…俺と友達だって思われて、いいのか」
「いいよ、なんで隠す必要あるの?」
「だって俺、嫌われてるし」
「嫌われてないよ。変わり者だとは思われてるかもだけどさ」

俺がそう言って笑うと、先輩はまだ困惑したような顔をしている。
何がきっかけで先輩が自分の殻に閉じ籠ってしまったのかは分からないけれど、でもこれだけは言える。

「先輩は、もう少し自分を客観的に見れるようになった方がいいね。先輩が思うほど、周りは敵だらけじゃないよ?」
「…そう、か?」
「そうだよ。だって俺、先輩のこと好きだし」
「…」
「先輩は?」

俺が問いかけると、先輩は下を向いたままでぽそりとつぶやく。

「…俺、」
「うん?」
「俺の教室、グランドが近いから結構前から青木のことよく見かけてた。いつも明るくて、にこにこ笑ってて、沢山友達に囲まれてて俺とは全然違う」

…うーん、まあそうなのかな。

「羨ましかった。お前みたいになりたいって憧れてた。だからここで会えた時、俺嬉しくて、」

そこまで話すと、先輩は息を整えた。

「…はあ、こんな一杯しゃべったの久しぶり…」
「ははっ、まじで?すげー」

俺が笑うと、先輩が目を細めて俺を見た。
あ、今先輩も笑ったでしょ。俺には分かる。

「…俺も、お前のこと好きだよ。ていうか、むしろ青木より俺の方がずっと前から見てたんだから、俺の勝ち、だ」
「はあ?なにそれぇ!」

俺の反応に、先輩が今度は本当に微笑んだ。
二人で笑い合う。
…それがすごく嬉しい。

この「好き」が恋なのか友情なのか、まだまだ測りかねる部分はあるけれど、でも一緒に居たいって気持ちは同じだって分かる。

先輩の硝子玉みたいな瞳の奥に、暖かく優しい光を見ることができるのは、今は俺だけの特権だね。
まだつぼみのあなたがいつか花開くその時を、俺が一番近くで見れたらいいな。


それまではこの秘密の庭で、二人だけの世界にひっそりと生きよう。


end.

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あきゅろす。
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