おひとりさま(一匹狼×遊び人)
一人は楽しい。
だって何するのも自由だし。
人に合わせて気をつかって、自分を殺す必要もないし。
きっと俺はこのまま仲間と呼べるような友人も恋人も作らず、生涯独身を貫くことになると思う。
まあ、老後のことを考えて貯金だけはしておこうかなと思っている今日この頃だ。
「宮川ー!今日飲みあるけどお前も来ない?」
大学の講義を終えて帰り支度をしていたら声をかけられた。
その男は茶髪にピアスでタレ目、右目の際にほくろが見える。
服装もチャラついていて、俺とは正反対の見るからに遊んでそうな男だ。
馴れ馴れしく話しかけてくるということは同級生だろうか?
…知らねーよ、誰だこいつ。
「…遠慮しとく。俺これからバイトだし」
「えー、お前さあいつもそう言うじゃん。付き合い悪くない?」
いつも?
てことは何度かこいつに誘われたことがあるってことか。
人の顔を覚える気がないためか全く思い出せない。
「…そういうの、俺の人生に必要ないものだから」
俺の発言に、男が目を丸くした。
まあこう言えば大抵の奴らは引くからな。
「じゃあそう言うことで」
二度と俺を誘うんじゃねーよ、という気持ちを込めて相手を見た。
けどなぜか、奴は引くどころか興味深そうな顔をして俺を見ている。
は?
「宮川、俺、一週間でお前の考え変えさせる自信あるよ。…だから賭けないか?」
は?
「いや…、」
「お前が勝ったら二度とお前に絡まないし、あと学食一週間分の食券つける」
「…のる」
将来のために貯金を怠らない俺は基本的に手持ちの金がない。
だから食券一週間分はかなり魅力的なものであった。
だが今になって思う。
あの時安易に賭けにのってしまった自分はなんて浅はかだったのかと。
俺に賭けの提案をしてきた男の名は藤木と言った。
そして、この日から藤木の怒濤の友達ごっこが始まったのであった。
初めは電話番号の交換から始まり、学校では一日中行動を共にされ、バイト先のコンビニにまで押し掛けてくるわ、バイト上がりには待ち伏せされてそのまま飲みに連れていかれるわ(しかも合コン)、やっと解散したかと思ったらその後も朝まで藤木にマンツーで付き合わされ、睡眠不足とアルコールの過剰摂取で本当に死ぬんじゃないかと思っている。←今ここ。
「…ふ、藤木、俺もう無理。寝ないと死ぬ」
「うっそ、お前ほんとに大学生かよ?オールくらいでグロッキーとか、ウケる!」
「労働後に大量の酒を飲んだら普通こうなるだろ…」
それに俺はめったに酒飲まない方だし。
どんどん青ざめていく俺を見て、藤木はようやく状況を飲み込んだらしい。
奴が俺の手を引きながら、お前んちこっから遠いだろー、どうすっかーと話しかけてくる声を上の空で聞く。
なんでもいい。とにかく横になりたい。寝かしてくれ。
次第に意識が遠くなり、俺の世界はシャットダウンされた。
「…うっ、」
ぼーっとする中、徐々に意識が浮上してくるのがわかる。
…なんか知らない天井が見えるのだが。
「…ここどこ」
うわ言のように呟く俺の前に影が差した。
「起きたー?ここまで運ぶの超苦労したんだけど」
「…ふ、じき?」
「そうだよ。大丈夫ーお姫様?」
…お姫様ってなんだ。
「ここ、どこ?藤木の家?」
やたらでかいベッドに俺は大の字になっていた。
「いや、ラブホだけど?」
らぶほ…。
はあ!?ラブホテルだと!?
「な、ど!?男っ」
「動揺し過ぎだし。これだから童貞は」
けたけたと笑う藤木を睨む。
うるさいよ、童貞の件はほっとけ!
「それに男同士だって入れるぜ?」
俺の慌てぶりを笑いながら眺めている藤木は相当場馴れしているようだ。
むっかつく。
そもそもこんな所に来る羽目になったのはこいつのせいじゃないか。
「…ダルい。俺どれくらい寝てた?」
「んー、一時間くらい?」
…全然寝たりない。だがしかし今日は2限から授業が。
「…帰る」
「は、無理じゃね?てかもしかして学校行く気?どんだけ真面目!?」
うるさい。
俺の人生において大学の講義は重要事項のひとつだ。
起き上がろうとすると、なぜか藤木が俺の肩を押さえてそれを制する。
「いーこと、思いついたわ」
「?」
にやりと口の端をつり上げて笑う男がやけに扇情的でどきりとする。
…なんだ、なんだこれ。嫌な予感しかしない。
「お前の童貞、俺がもらってやるよ」
はあああ!?
「な、なにを馬鹿な…」
「宮川が俺に骨抜きになっちゃえば俺の勝ちだろ。やっぱ友情よりエロだな、エロ」
そう言うと藤木は自分の服を脱ぎ出した。
「ま、待て!意味がわからないっ。は!?おいどこ触ってんだ、ちょ、うわ、やめろぉぉー!」
「うるせー」
「っぎゃーーー!!」
暗転。
結局、俺はその日2限の講義を受けることが出来なかった…。
そして友人も恋人もすっとばし、いきなりセフレができましたとさ。
なんだそれ。
藤木の発言通り、奴から(歪んだ)性教育を施された俺はすっかりサカリのついた犬状態だ。
奴に迫られたら拒否できない。
なんで男相手に。ありえない。死にたい。
もちろん賭けは奴の勝ち。
しかも奴が勝った際の報酬については聞かされていなかった。
…一体何を言われるんだろう。奴隷になれとか?
おそるおそる聞いてみると、意外な答えが。
「あー、言ってなかったな、そういや」
「…お手柔らかに頼む」
俺がびくびくしていると、藤木はにっこりと微笑みながら俺の首に両腕を回してきた。
「?」
「俺と付き合ってよ」
「…え」
どうやら藤木はもともと俺に気があったらしい(?)
藤木のせいで俺の人生設計は総崩れだ。
けど、もう最初の頃のように奴を突き放せない自分がいた。
…そんなわけで、不本意ではあるものの生まれて20年目にして俺は初めて恋人ができ、一人で生きていく計画は幕を閉じることとなった。
end.
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