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アイザキガカリ
28
『無関係』。
 相崎がそう言ったのだろうか。
「……振ったなんて」
 振り絞った声は情けなくも小さく、そして掠れていた。
「えー?貴史の気持ち知ってんのに女に連絡しろとか言うたんでしょ?しかもその子貴史に気がありそうな子なんやろ?あーあ、可哀想な貴史くん。そういう遠まわしな振り方っていっちばん堪えるわ」
 大げさに嘆く佐々木に俺は何も言い返せず、ただ俯いた。
 俺の目の前にジュースの注がれたグラスが置かれ、それをぼんやりと見つめる。
 こうして改めて他人の口から聞くと、本当に自分の無神経さが嫌になる。時間があの日に戻せればいいのに。
「…あの、相崎に最近会いましたか」
 尋ねると、佐々木はおやというように眉をあげ、とぼけたように言った。
「会ったよ?」
「どうでしたか?」
「なに?君に振られてすっごく落ち込んでたとか聞きたいの?残念ながら普通だったよ。いつもといっしょ。頭のいい奴だから切り替えも早いんちゃう?」
 聞いた瞬間、胸が痛んだ。
 「普通」なのか。俺はこんなに馬鹿みたいに相崎のことを考えていたのに。普通じゃなかったのは俺だけなんだ。
 そういえば相崎は惚れっぽい奴みたいだから、もしかしてもう誰か他に目が向いてるのかもしれない。
 俺はたまらず立ち上がった。もう一刻も早くこの場から立ち去りたい。
「…そうですか。ありがとうございます。俺、帰ります」
 言って財布を出そうとすると、なぜか佐々木が慌てたように言った。
「いやいやいや、せっかく来たんやから、そんなすぐ帰ることもないんじゃない?」
「…いえ、相崎が元気ならそれでいいんです。ありがとうございました。おいくらですか」
「子供からこれくらいで金取れるわけないでしょ。店のおごりや。いいから座りな」
 腕を引かれて腰を下ろす。
 もう勘弁してほしい。
「ほんとはね、うまくいく思ってたんだけどねえ」
 佐々木はため息をついた。
「ここだけの話、貴史の何が嫌だったん?顔いいし頭いいし…そりゃまあ性格はちょっとアレだけど」
 相崎に嫌なところなんて、あるわけない。
「それともやっぱ男はダメ?なら完全にアウトやなあ。こればっかはどうしようもないわ」
「え…」
 その言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
 そうだ。男同士じゃないか。
 そんなこと考えもしなかったなんて、それこそ俺はどうかしている。
 泣きたくなるほど会いたくなったりとか、頭から離れなかったりとか、どう考えても同性相手に常軌を逸していることだ。
 だけどそのおかしな感情は確かに自分の中にあったことで。
 ああ、頭の中が混乱する。
 俺の沈黙を肯定ととったのか、佐々木誠司は存外に真面目な口調で諭すように言った。
「まあ、真面目に大人としてキミにアドバイスすると。振った方が振られた側のこと考える必要なんてまったく無いよ。キミは何も悪くない。だからカズキ君が貴史のことを気にすることもない。むしろ奴のことは忘れてやりなさい」
 佐々木誠司のありがたいのかもしれない助言は、最後の言葉以外は俺の耳を素通りしていった。
 
 俺はいままで相崎が自分をどう思っているのかしか気にせず、自分が相崎をどう思っているのかは考えたことすらなかった。
 ものすごい間抜けだ。いまごろ気づいた。
 俺は…俺が、相崎のことを好きなんじゃないか。
 相崎を忘れるなんてとても無理だ。 

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